ホビー業界インサイド第5回:デジタル技術が揺るがすフィギュア造形の“常識” “ZBrush”原型師、深川克人インタビュー

2015年11月28日 11:000

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“Zbrush”最大のハードルは、お金?


──デジタル造形のデメリットというと、何があげられますか?

深川 個人制作のレベルでいうなら、まずお金ですかね。ZBrushの場合、ソフト代だけで10万円前後します。ペンタブレットやPCも新規購入すると、初期費用で20万円以上になってしまうことも……。さらに、3Dプリントする場合の出力費もかさみます。一般的なサイズのフィギュアだと、1体あたり5万円以上はかかるのが当たり前という感覚です。

ちなみに、僕の最初のオリジナル・フィギュアでは、とりあえず高さ25センチのサイズで出力見積もりをとってみたところ、なんと20万円弱と、目が飛び出るような金額になってしまって。ところが高さ20センチに変更してみると、10万円以下に下がったんです。立体物というのは、数センチほどの寸法差で、その「容積」が大幅に変わり、それに応じて3Dプリンタの出力費もかなり違ってくるんです。今後、もっと安価で高性能のプリンターも出て来るとは思いますが、たとえば、ガレージキットを売る場合、この出力費を回収するだけでも、なかなか大変でしょう。

あとは、3Dプリントしたときのサイズやボリューム感、ディテールの深さ、パーツの厚みなどが、画面上では把握しづらい。そのため、出力した立体物に、違和感が出てしまう場合がある。それも、今のデジタル造形の弱点かも知れません。


──国内外の3Dアーティストの作品を見ていると、出力しないでモニター上で鑑賞するデジタル・フィギュアみたいなジャンルが、ありますね。

深川 最近では、お手軽に写実的なCGを仕上げられるソフトも登場して、一見、実物と区別が付かないような作品も増えていますよね。しかも、ブラウザ上に3Dモデルを表示して、ぐるぐる動かして眺められるサイトもあります。

グリフォンエンタープライズさんのウェブサービス「ちゃるるー」はまさに、データで集めて楽しむバーチャルフィギュアというコンセプトを掲げていますね。


デジタル造形に移行するなら、ここ数年が狙いどき……?


──極端な話、何年かしたら、「アナログ造形している人は珍しい」という時代が来るのでしょうか?

深川 少なくとも、商業ベースのフィギュア原型制作では、今よりさらにデジタル造形が浸透していきそうです。商業フィギュアの原型を作る場合、そのメーカーさんだけで製品が完成するわけではなく、(アニメやゲームなど)原作の版元さんのチェックも入ります。例えばメーカーチェックがOKでも、版元さんから「頭が大きすぎる。もう少し、小さく」といったリテイクが出た場合、アナログならどうしますか? ほぼ、作り直しですよね。一方デジタルでは、ちょっとの操作で、全体あるいは必要な部分だけを、即座に拡大縮小できます。また、ポーズや髪型などの変更も、より簡単に行なえる強みがあります。メーカーにとって、デジタル造形のメリットは多いはずです。

だけど、逆にアナログ造形に徹底的にこだわるメーカーもあれば、ものによってデジタルとアナログを使い分けたり……と、メーカーごとに温度差があります。また、指先でモノに触れながら形を作る楽しさのような、単純なフィーリング面から言っても、アナログ制作の作品が全く無くなってしまうことはないと思います。


──完全にデジタルへ移行するには、まだ課題が残っている?

深川 そうですね。現状では、デジタルで造形したフィギュアをまず立体出力し、ヤスリがけ等で表面処理を行って、アナログで原型を完成させる。次に、その原型を3Dスキャナーでまたデジタルデータ化してから、あらためてCADデータに変換し、金型を起こして量産へ……なんていう工程を踏んでいると聞きます。この工程は容易には自動化できず、基本的に手作業とのことです。これは、かなりの手間ですよね。

──今がちょうど、アナログからデジタルへの過渡期になっているようです。

深川 まさに、そうですよね。デジタル造形の裾野が、これからますます広がっていくことは間違いないでしょう。特にプロの原型師になりたいという方には、もしかするとここ数年間が、狙いどきかも知れません。デジタル造形を導入するメーカーが増えているし、原型師さんの中での関心も高まっています。そうなると、プロのデジタル原型師の競争率が、今後どんどん高騰していく可能性もありますので(笑)。

ただ、趣味で始めるぶんには、何も焦る必要はありません。PCやペンタブレットの操作に慣れていない方には、最初は、少しハードルの高い部分もあるとは思います。だけど、それはアナログの工具や材料を使いこなすまでに時間がかかるのと同じです。ZBrushも、単に新しい道具・素材のひとつなんです。




(取材・文/廣田恵介)

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