当世腐女子気質 第二回「"受け"・"攻め"の定義の変遷とBL作品の多様化」 GUEST HOUSE ARCA 分室

アキバ総研 | 2008年02月06日 21:00

当世腐女子気質 第二回「"受け"・"攻め"の定義の変遷とBL作品の多様化」 GUEST HOUSE ARCA 分室「GUEST HOUSE ARCA 分室」不定期コラム第3回(文:白城裕 絵:ふじつぼ イリューシャ3歳)



当世腐女子気質 第二回~「受け」・「攻め」の定義の変遷とBL作品の多様化~

(※注:本考察はあくまでコミックやゲームの中でのフィクションについてのものであり、実社会の現象とは何らの関連もありません)


「萌えな近未来の服を着て男子二人がチーム組んで一緒に仕事したりしてるだけでご飯3杯いける!」

(とある海外MMOをプレイして。by腐う子)

コミックなどにおける「BL(ボーイズラブ)」に必須なもの、それは「受け」と「攻め」である。
この2つの単語なくして、BLは語れない。
今回は、この二つの単語の定義と、その歴史の変遷について考察してみようと思う。

さて、「受け」と「攻め」とは何か?
といえば、それはいわゆる、コトに及ぶ時の立場であり「受け」とはいわゆる女性役、「攻め」とは男性役とそれぞれ定義される。
コミック界でBL(に準ずる)ジャンルが確立された頃には、「男性役」・「女性役」と言う文字が示すように、「受け」はジェンダー論的な女性の立場も含むことが多かった――いや、それが大半であった。
「男性役」である「攻め」は、社会的強者もしくは肉体的強者であり、「女性役」である「受け」は、社会的弱者もしくは肉体的弱者と言うのが通説であった。

そして、「受け」は女性と見まがうような容姿をしており、家事や芸術事が得意で繊細……と言うステレオタイプな像が作られていた。
完全に、「受け」は古典的男女の恋愛小説における女性の理想像を取っていたわけである。
この当時、女性は「受け」に自らを投影して現実ではかなわない恋愛願望を満たすためにBL作品を楽しむと言うのが、腐女子(当時この単語はなかったが)評論家の嘲笑を帯びた持論だった。
だが、現在では最早このような定義や論は通用しない。
その原因には、「受け」・「攻め」の多様化があげられるだろう。

現在ではひと口に「受け」・「攻め」と言っても、ステレオタイプな価値観は通用しない。
それは、ナサ攻め、ヘタレ攻め、鬼畜攻め、女王様受け、やんちゃ受け、襲い受けなどなど
「攻め」・「受け」の前にそれぞれ修飾語がつくようになり、その修飾語のほうが立場として大きな位置を占めるようになったからだ。

「攻め」でも「ナサ(情けない)」、「受け」でも「女王様(尊大・居丈高)」という、今まで「攻め」・「受け」の単語が含んでいたであろうニュアンスを覆す概念の修飾語がつくことによって、「攻め」・「受け」と言う単語から「男性」・「女性」と言うジェンダー的な意味合いが消えた。

「マンガ大賞2008」にもノミネートされている、「きのう何食べた?」(よしながふみ著 講談社 現在「週刊モーニング」連載中)においても、弁護士(筧史朗)と薄給の雇われ美容師(矢吹賢二)がゲイカップルとして登場するが、「攻め」は圧倒的に社会的地位が高いはずの弁護士ではなく、雇われ美容師のほうである。
体格差もほとんどないし、職業的に芸術肌で、過去の遍歴について嫉妬したりと言う、謂わば女性的な要素をより多く持つはずの美容師のほうが「攻め」なのである。(料理は弁護士の方が担当しているが)

他にも例をあげてみよう。

現在「MAGAZINE BE×BOY」(みささぎ楓李著 原作:SPRAY リブレ出版)で連載中の「鬼畜眼鏡」。
主人公・佐伯克哉は下請け営業会社でまだ入社3年目のミソッカス部署のダメ平社員(社会的弱者)。
相手となる御堂孝典は取引先親会社(大企業)勤務・部長(執務室付!)・エリート(32歳で異例の出世)と三拍子揃った立場(社会的強者)。
しかしながら攻めは主人公であり、受けは取引先部長なのである。(これには若干のタネがあるのだが)

昨年3巻で完結した『課長の恋』(九州男児著 ビブロス リブレ出版)。
主人公は大金持ちで課長職(やはり執務室あり)にあり、会社の経営権の半分を持つ英国帰りのエリート、大宝和彦(社会的強者)。
相手は天涯孤独の新入社員、原田(社会的弱者)。
やはり、攻めは立場的に弱者である原田のほうである。(たまに逆転することもある。ストーリー・表現共にコメディなので入門用やネタとしてオススメ)。

これらは、昔であれば、考えられないキャスティングだ。
これには、女性の社会進出や地位の向上、ジェンダー観の変化が影響しているのかもしれない。

また、もう1つの原因として考えられるのが、一時期起こった「典型的受け」排斥運動だ。
「BL(男同士の恋愛)は男女と違って立場が対等だからいいのだ」と言う思想のもと、肉体の性別を男性にしただけのような「典型的受け」を過剰に排斥する動きが一時期盛んになった。
「下克上」、「年下攻め」と言ったジャンルが流行り、従来の「受け」・「攻め」の概念と逆転する作品が多く生まれ、もてはやされた。
それと同時に、「受け」に自己投影するのは恥とまで見る動きもあり、「攻め」に感情移入する、という発言が多く見られるようになった。
心底そうなのか、それとも、1つのファッションであるのかは定かではないが。
これは腐女子界におけるブルーストッキング運動と言っても過言ではないだろう。

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今や「受け」・「攻め」の判定基準は明確にはなく、「転がしたら面白そうな男(性キャラ)は『受け』」と言う風潮さえ見られる。

一例として、先日、我々「GUEST HOUSE ARCA」で行われた会話を挙げてみよう。
もともと、「GUEST HOUSE ARCA」は(腐女子)TRPGゲーマー集団なので、「ダブルクロス2nd」(F.E.A.R社)と言うTRPGシステムを遊んでいた時の会話である。



SIR(GM):というわけで、ようやく支部長室にたどりつくと、威圧的で皮肉なセリフとともに出迎えたのは現Y市支部長。
 50才がらみの体格のいい男性。元日本支部直属の有能エージェントだった。
 戦闘指揮・支援・攻撃・回復・情報収集とマルチにこなす実力者だが、その分プライドが高く、態度も傲慢になり勝ち。権力志向が強いらしい、という評判の男だ。
 ちなみに、コードネームの由来である“プース・カフェ”は、いくつものリキュールを層にしたカクテルで、その好きなリキュール部分にストローを差して飲むと言う飲み方をするものなんだけど、そのように、好きな部分の能力を引き出して使えることから来ている……と言うのが表向き。
K:裏向きは?
SIR:“プース・カフェ”の「プース」には押しやるとか押しのけると言う意味があってね。他人を押しのけるようなやり方を平気でするから、と言う説もある。
20080206210000.jpg ふじつぼ:BL的にいうとプース・カフェは受け。
T:同意(うん)
ふじつぼ:ヒィヒィ言わされるんだよね(うきうき)
SIR:その人、頭頂部薄いよ?(BLとは無縁を主張)
T:えー、ナイスミドルはー。細いシルバーフレームのエリート系はー。
SIR:頭頂部の薄いオッサン。(重ねて主張)

その後、GMであるSIRの回避努力虚しく。

SIR:と言うわけで、オープニング終了でーす。
K:どう繋がるんでしょうね、わくわくです。
SIR:まあ、大体察しのついたとおりの繋がり方です。
ふじつぼ:つまり、“プース・カフェ”総受け。
SIR:どこをどうしたらそういう結論になるんじゃ!
K:“プース・カフェ”超人気…。あの人は私も受けだと思う(笑)
SIR:今回はノーマルだって言ってるだろー!(遠吠え)

(※注:あくまでもTRPGの世界におけるフィクションの話であり、実社会の人物とは何らの関連もありません)


以後、このキャラクターは「受けカフェ様」と呼ばれ続けることになった……(ちーん)
年長者・権力者・実力者・性格的にも傲慢……という、かつての時代なら「攻め」に分類される要素をてんこ盛りにしても、現代ではかえって「転がしたい(受けに分類したい)」と見なされるのだ。
もうこうなると「攻め」の基準を探すほうが難しい。
いっそくじ引きで「攻め」を引けたら「攻め」をやってもいいよ、と言いたくなるくらい難しい。
最早、「Dont't think! Feel!」の境地である。

 

こうした流れの中で、BL作品も多様な変化を遂げていかざるを得なかった。
その結果、現在のように、多様な「受け」・「攻め」、シチュエーションが跋扈するようになったのである。
「BLにおいて体育会系のマッチョがお弁当にタコさんウィンナーを仕込む率、実に9割」(『少年よ、耽美を描け』より)、というようなセリフは、過去の世代から見れば、信じられないものかもしれない。

ジェンダー格差が徐々に失われつつあり、男か女かよりも個性が重んじられ、男女間でのリアル恋愛・結婚でも、徐々に女性主導やハウスハズバンドが普及し始め、女性が強くあらねばならなくなっているのが昨今の世間情勢である。
その中で、BL界で先んじて起こったこうした変遷は、むしろ必然であったのかもしれない。
おりしもバレンタインシーズン。
ハート型のチョコを2つ手作りして、その上にアイシングで「受け」・「攻め」とそれぞれ書き、ラッピングしてから2人の男性に配り、どちらを引いたかで受け・攻めを決めてみるのも楽しいかもしれない。



注:ウケ狙いをした後はちゃんと普通のチョコも贈ってフォローしましょう。
擬態は腐女子の必須スキルです。

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■文中補足

『当世書生気質』
坪内逍遙の小説。写実主義を主張した『小説真髄』に展開した理論に基づき、明治時代の書生風俗を描いた作品だが、結局雅文体から完全に抜け出すことはできなかった。

下克上
下の立場の者が上の立場の者を攻めること。秘書×社長、部下×上官などが一般的。

年下攻め
かつては年齢の上下で「受け」・「攻め」が決定されるのが一般的だったが、その概念を覆す、下級生×上級生など、立場が弱いはずの年下が年上を攻めること。

ブルーストッキング
エリザベス・モンタギュー他によって18世紀に英国で設立された、女性の社会的教育運動を行った組織。これにならい、日本では平塚らいてうが『青鞜』において婦人論を展開し、女性の地位向上に努めた。

TRPG
Tabletalk Roll Playing Gameの略。非電源ゲームとも呼ばれ、複数人で会話やサイコロによってシナリオを展開していくゲーム。いくつものシステムが出版されている。

ダブルクロス 2nd
近未来を舞台とした、F.E.A.R社製TRPGシステムの一つ。デザイナーは矢野俊策氏。
※「ダブルクロス 2nd」は有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチの著作物です。

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GM
Game Masterの略。TRPGにおけるシナリオ作成・進行・ルール管理役。

擬態
腐女子とバレないように一般女性を装い社会に溶け込むための技術。大抵の腐女子は習得しているので、パッと見はわからない。



■ボーイズラブの多彩なカップリングと無駄な知識を増やすのにオススメの参考書

『課長の恋』全3巻(九州男児著 ビブロス リブレ出版)


■サークル&筆者&絵師&登場人物紹介

サークル:「GUEST HOUSE ARCA」
もともとはTRPG(TabletalkRollPlayingGame)とPBW(PlayByWeb)を愛する腐女子meets腐女子で出来上がったサークル。
活動は主に腐な要素が取り入れられたTRPGセッション。
メンバーは世界各地に散らばっている。
名前の由来は、SIRがGMのPBW「BOX GARDEN」に登場した、怪しい主人が切り盛りするお宿の名前から。


文:白城裕 Shiraki Yutaka
専門は国語国文学なはずだが活字が嫌いともっぱら漫画を愛読するエセ文学系腐女子。
好きなジャンルは国文学(not日本文学)とファンタジー。
「劇団オグオブ」非公認サポーター。2/9・10、大塚・萬劇場にて第13回公演!


絵:ふじつぼ
脅威の情報収集能力と合理的な判断力を併せ持つIT系セレブ貴腐人。
好きなジャンルはSFと動物。趣味は動物園でBLアテレコ。


絵:イリューシャ3歳(チョコ絵2種類のみ担当)
元webデザイナーのくせに、自宅ではペイント一発描きを信条としている。画像ソフト・Flash作成ソフトも複数所持し、スキャナもペンタブも持っているのに全く使用せず、最近はマウスすら使わないという、限りなくロースペックに挑戦し続ける絵師。お気に入りは頭足人(※)。
※3歳程度の胴体と言うものの認識がまだない幼児が描く、頭から直接手足が生えた人物画。


登場人物:SIR
他人(のキャラクター)を板挟むためならどんな苦労も惜しまない嫌な方向に努力家なマルチタスク系ゲーマー腐女子。
好きなジャンルは企業と裏社会のシティアドベンチャー。


登場人物:腐う子
語学半堪能、経済と経理に明るい拝金系腐女子。学問を究めるために留学したはずが、留学1年目にして「海外YAOI文化」に出会ったのは運命。
好きなジャンルは無機物と宇宙と概念。



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