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──セルルック3DCGという新しい試みだった今作ですが、プロモーションをする中で、TVシリーズから「Cadenza」に至るまでの世間の時流や、反応の変化を感じた場面はありますか?
南 TVシリーズ放送直前までの「アルペジオ」は、アンダードッグ、つまりはまったく注目されていなかったと言っていいと思うんですよ。原作コミックも当時は知る人ぞ知るといったタイトルでしたし、原作ファンからしてみれば戦艦だけでなくキャラも、手描きではなく全部CGでやるなんてブーイングでしかない。でも、そこが一番の面白いところだと思ってこのタイトルとやり方を選んだので、正直それは気にしていませんでした。それよりもとにかく、1話できちんと見せられるものを作ることが大事でした。TVシリーズ放送開始を前に、2013年8月の夏コミにブースを出して、「艦、キャラともにこれだけのものが見せられます」、という1分ほどのPVを会場で流したんです。周りは業界関係者しかいない設営日に機材のチェックのつもりで再生してみたら、まわりの企業ブースのプロデューサーが続々と集まってきて、「すごいね!」「できるもんだね!」と言っていってくれたんですよ。いやー、気持ちよかった(笑)。夏コミで注目を集められたことは、放送への自信にもなりましたね。
──放送前の段階で一般のアニメファンに向けてはどのように宣伝を行っていったのですか?
南 フライングドッグって、どちらかというと音楽のイメージが強いと思います。アニメの映像会社として、作品を宣伝してビデオパッケージを売るという仕事の内容や方法は、アニメ音楽だけを扱うときとはかなり異なるんです。ですから僕たちは、よそのアニメメーカーがヒットした作品でやっている宣伝をすべてやることにしたんですよ。リストアップして優先順位を付け、上からひとつずつこなしていきました。
──すべてですか! 大変ではありませんでしたか?
南 大変でしたよ。しかも実際にはさすがに全部はできませんし(笑)。効率よくやれるのであればそれに越したことはないですが、僕らはまだ効率を求める段階にないので、やるしかないんですよ。僕も気持ちだけは10キロくらい痩せてますからね!(笑)。
──TVシリーズが始まって最初の手応えや、ファンからの反応はどのように感じられましたか?
南 僕の目の前でお客さんが見ているわけではないので、反応っていっても僕らはネットを覗くしかないんですよ。それはまったく隠す気はありません。いろんな感想を見て、このリアクションならかなり好意的に受け入れられていると思っていいだろう、みたいなことは把握していました。あとはオンエア前の先行上映イベントでお客さんの顔を見たときに、少し自信を持ったりしました。
──オンエアで満足している反応と実際にお金を出してパッケージを買ってくれるお客さんの存在には乖離はありませんでしたか?
南 この作品に関してはあまり感じませんでしたね。ただ、グッズの売り上げ数などを見ていると「アルペジオ」は熱心なファンが多く、1人の人がたくさんの種類の関連商品を買ってくれるタイプの作品なんだということがわかってきました。幅より深さというか。逆に、映画のプロモーションではそれが一番の課題でした。熱心なファンのみに留まらず、幅広く多くの人に見てもらわなければなりませんからね。「アルペジオ」の作品名自体は、3DCGでセルルックのアニメとしてずいぶん浸透してきたと思っています。裏を返せば、名前だけは知っているけどまだ見たことがなかった人たちが映画館に足を運んでくれるように、TVシリーズの再放送を2度も行ったり出演声優ユニットの「Trident」のライブをやったりして、みなさんの目にとまるようにプロモーション活動を続けてきました。今のところ狙い通りに宣伝を進められているんじゃないかと思ってるんですけどね、どうなることやら(笑)。
──いよいよ公開を前にして、TVシリーズから長きに渡ってこの作品に携わってきた南プロデューサーの思い、また共に作品を作り上げてきたクリエイター陣への思いを教えてください。
南 そうですね……。こんなこと恥ずかしくて面と向かってはとても言えないですが、僕はたぶん作品そのもの以上に、いっしょに作ってきたスタッフだとか声優だとか、本作でいっしょに仕事した人たちに心から感謝していますし、彼らを本当に愛しています。プロデューサーという仕事をしていると、作品の最初から最後までを見届けることになります。2011年に、最初に少年画報社よりこの作品を預かってから、現時点で既に4年半も「アルペジオ」の仕事をしていて、今あらためて振り返ってみるといい4年半だったなあと思いますね。でもこの結果は当然、僕の力ではなく、作品を作る現場のみんなのおかげです。彼らが僕に楽しい思いをさせてくれたと思っています。
──いいチームだったんですね。お話の最初にみんなが“ビジネスマン”だとおっしゃいましたが、作品をよりよくしていこうというエンターテイナーの自覚もあわせ持ったスタッフ布陣だったということですね。
南 僕らは、英語で言えばショービジネス、日本語で言えば娯楽産業をやっているという気持ちがとても強くあります。その意識は岸監督をはじめとしたスタッフみんなに共通しています。そりゃあ楽しくできるほうがいいと思いますが、甘ったれた夢だけでは仕事とは言えません。たとえ内容がよくても世に知られなかったり売れなかったりしたものは、ホントにいいものだと言っていいのかな、と思うところが、やっぱりどこかにあるんですよ。だから成果が数字に表れ、続きを作れるといった形でファンに還元できるようになるのが、僕は一番いいと思います。僕は制作作業でこの2週間ほどの間に徐々にバージョンアップしていく作品を合計で20回くらい見ているんですが、今回の「Cadenza」はホントに超面白いんですよ! こんなにゴージャスで、エンターテインメント性に富んだ満足感を得られる映像はそうそう見られないと思います。作品作りとビジネスの両面で、「いい仕事ができたなあ」と思っています。
(取材・文/奥村ひとみ 構成/日詰明嘉)