アニメ業界ウォッチング第12回:「萌え」「美少女」……海外から見た日本アニメ文化の醍醐味と“ヤバさ”とは? 日本アニメ研究家、レナト・リベラ・ルスカ、インタビュー

2015年08月02日 10:000

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「ロリコン」「萌え」「美少女」という言葉の危険性


――だけど、日本のアニメや漫画は80年代に流行った「ロリコン」のように、海外から嫌われる面もあるじゃないですか。

レナト 日本の「ロリコン」文化はマイナーすぎて、あまり海外には知られていなかったと思います。昨年、アーティストの村上隆さんとMr.(ミスター)さんが、ファレル・ウィリアムズの「イット・ガール」のミュージックビデオに制作協力したんです。そのミュージックビデオにはかわいい女の子キャラ が出てきて、歌詞がちょっと性的だったんです。そのビデオについて、私の友人の翻訳家、マット・アルトさんが、やや批判的な記事を書いたところ、大きな反響を呼んでしまいました。それまで、日本のポップカルチャーにおける「ロリコン」文化の特殊性や文脈が、くわしく英語で書かれたことがなかったからでしょうね。英語圏の人たちにとっては、衝撃的だったと思います。ただ、日本の「萌え」と「ロリコン」はごっちゃにとらえられていて、海外には比較対象になるような文化がないんですよね……。映画「キック・アス」に出てくるヒットガールは、問題視されていませんでしたか?

――日本では、R15+指定で公開されました。ただ、「キック・アス」に暴力描写があるから年齢制限されたのであって、ヒットガールが問題視されたわけではないです。

レナト そうでしたか。では、私の考えを話します。80年代の漫画・アニメでは、「ロリコン」という言葉が気軽に使われていましたが、宮崎勤事件が起きてから、メインストリームで使うには危険性のある言葉になりましたよね。たとえ「萌え」「美少女」と言い換えたとしても、「ロリコン」という言葉のもつ危険なイメージが、どこかに残っているような気がします。「ロリコン」はファンタジー世界の嗜好であって、社会で問題を起こさなければ許されるはずだ、という意見があります。それが理想ではあるのですが、果たして実際の犯罪と、アニメや漫画の「ロリコン」文化が完全に無関係だと言えるのか……証明することは困難ですよね。
 私はハリウッド映画をたくさん見ますが、アクション映画はとにかく「敵をやっつけろ」という内容ですよね。そういう映画を見た子どもたちは「悪い敵は殺してもいいんだ」という考えの大人に育ちます。個人の意識と大衆メディアの関係は、かなり深いのではないでしょうか。ファンタジーと現実は「完全に無関係」とは言いにくいし、「明らかに関係がある」と証明することも難しい。自分の部屋でなら、どんな作品を楽しもうとかまわないと思います。だけど、たとえば「ロリコン」的な作品を一般社会に拡散した場合には、社会から我々が悪いイメージを抱かれる可能性もある。みんなが思っているより、はるかに複雑な問題です。ひとつの見方で決めつけるのではなく、もっと多くの側面から考え直す必要がありますね。

――女児向けアニメを大人の男性が見たりする文化も、日本独特なんでしょうね。

レナト 女児向けアニメを好きな大人たちが攻撃されなければ、それでいいと思っていますか?

――ええ、住み分けができればいいと思います。

レナト 私はもう一歩進んで、子どもも大人も仲間はずれを作らず、一緒に見られる状態を理想としています。最初に日本に来たとき、年齢も性別も関係なく、誰もが仲良く同じアニメを見ているんだろうと思っていたんです。だけど、実際には「これは子ども向け」「これは大人向け」と細分化されすぎている。みんな一緒に見ているのは、ジブリアニメぐらいだったので、とてもガッカリしました。

――ところで、日本でアニメのブルーレイを買うと高いでしょう?

レナト 確かに、高いですよね。「このアニメ、面白そうだな」と店頭で興味をもった人が、「試しに見てみよう」と買える値段ではない。それでは、ますますユーザーが細分化されてしまい、いいことはありません。



(取材・文/廣田恵介)

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