アニメ業界ウォッチング第9回:模型メーカーの感じる「ガールズ&パンツァー」商品化の醍醐味 雑誌編集から模型業界に転職した高久裕輝(マックスファクトリー)インタビュー!

2015年06月18日 11:300

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――モデルグラフィックス誌からマックスファクトリーに移籍するまでの間、高久さんと『ガルパン』の間に変化はありましたか?

高久 杉山プロデューサーとは、お互いに助け合うような感じで、公私関係なく仲良くしてもらっています。また、現場のスタッフさんからも「モデルグラフィックスは、きちんとメカニックのことを扱ってくれている」という信頼を得られました。特集を2回やった後、「アハトゥンク・ガールズ&パンツァー」という、キャラクターなしの戦車オンリーの設定資料集を出したんです。その本はスタッフさんにも重宝がられて、書籍化をきっかけに正式名称の決まった戦車があるぐらい。ですから、僕自身がアニメ制作に関わったわけではありませんが、ファンの皆さんに向けて世界観を拡張していく際のお手伝いはできたんじゃないかと思います。

――すると、アニメの権利をもつ版元さんと高久さんとの関係は、かなり良好なんですね?

高久 『ガルパン』に関しては、とても良好ですね。『ガルパン』の製作委員会は、商品化に対して、特に積極的なんです。『ガルパン』は実在する戦車と女の子キャラを組み合わせることで、独自の世界観をつくっているわけですよね。だから、どこかのメーカーが「『ガルパン』に出てくる戦車の商品を作りたい」と申し出たところで、それを強く止める理由は製作サイドにはない。大きく作品の世界観を壊す商品でないかぎり、スキマ的な商品も含めて、ほぼOKしてくれる。もちろん、丸かぶりする商品はメーカー同士が競合してしまうのでNGですけど、少なくとも、僕が『ガルパン』がらみで版権的にトラブったことは、一度もありません。


――現在は、雑誌を通じてではなく、商品化担当として『ガルパン』に関わっているわけですが?

高久 念のために言っておくと、『ガルパン』のためにマックスファクトリーに移籍したわけではないんです。ルーチンでは回らない企画、社内で一度頓挫している企画に筋道をつける……そんな変わった役割を担っています。

渡辺 メーカーとしては、ルーチンな仕事も、しっかり回していかないといけない。しかし例えば、figmaでも「この作品は、今年○周年だから、こんなスペシャルな企画をやろう!」といった頭の切り替えは、通常のスタッフたちには難しいわけです。「いいっすね」と言ってはくれるんだけど、業務には組み込めない。だから、そういうイレギュラーな企画は高久にまかせて、「模型メーカーって、何だか楽しそうだよ」という雰囲気を盛り上げてもらう。いわば、“目立ち係”とも言えますね。

――逆に、“良さがわからないんだけど、売らねばならない”商品もあるのではありませんか?

渡辺 もちろん、どうしても心情的に抵抗のある「これは違う」といったお話は、断らざるを得ません。だけど、僕らの仕事はエンターテインメント、お客さんあってのものです。僕自身が、個人的に「これは乗れないな」「好きじゃないな」なんて理由で商品化しない選択肢はありません。普遍性があってポピュラリティーがあるキャラクターやコンテンツは、何かしら「なるほど、ここが魅力なんだな」というポイントが、必ずあるんです。

高久 ブルーレイが何枚売れているから、視聴率が何パーセントだから……という話は、フィギュアが何個売れるかどうかとは、ほとんど直結していません。マックスファクトリー社内では、「ソフトが○枚売れたから、このフィギュアは売れると思います」なんてプレゼンは、まったく行なわれていないんです。「僕は、このキャラクターが好きなんです」「商品化したいんです」という話が、社長室で1時間ほど、こんこんと行なわれることが多いです。「そこまでお前が言うなら、いいアニメなんだろう……俺は見てないけどな」といった感じで。


渡辺
 「なら、1体だけやらせてやる」とかね。そういう小さな声を拾う、変わったことを言うヤツの声もなるべく拾っておかないと、メーカーとして活性化していかないんです。いざ商品化してみて、痛い目を見ることもありますし、よい結果になることもあります。だけど、痛い目を見るにしても、まず商品化してみないと何もわからないわけですよね。僕らは、ゼロから何かを生み出すクリエイターではなく、“すでにあるものをより面白くする”アレンジャーに近いんです。だから、変に明るいんでしょうね。

高久 僕は、「説明する」とか「わかりやすくする」とか、「何でココはこうなってるんだ?」と聞かれたときに「じゃあ、そこは直しましょう」と提案するのが面白いんです。アニメ作品の商品化も、「このキャラクターのここを伸ばしてあげましょう」とか「ここは見ないようにしてあげましょう」とか、編集に近い仕事だと思うんです。余計なところを整えて、「こういう形に仕上げました」と、まとめるのが好きなんでしょうね。

渡辺 模型として気持ちいい密度・情報量を商品に持たせるためには、「ここは必要だけど、ここはいらない」といったジャッジメントが必要なんですね。高久の考え方は編集者的だし、モデラー的でもあると思います。

――せっかくなので、「figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様」の説明をお願いします。

高久  模型にもフィギュアにも、「クオリティ・ファースト」(品質最優先)という考え方がありますよね。PVCフィギュアが出はじめた当初の製品をいま見ると、きっと笑ってしまうような出来なんでしょう。だけど、「自分で作らなくてもいい」という驚きがあったし、商材として、まだまだ改善する余地が残っていたと思うんです。ただ、クオリティ・ファーストでパーツを無限に割り、無限に手間ひまかけたら、クオリティは向上するに決まっています。その代わり、価格は高くなるし、お客さんにとって触りづらいものになってしまう。細密なものこそ良いものだ、という思考でやっていくと、“後退すること”が難しくなってしまう。サラリーマンなら、誰でもクオリティ・ファーストを考えるでしょうけど、パーツ数は増え、価格は上がり、結果として必ず売れる見込みのある人気メカしか商品化できなくなってしまうわけです。だから、“後退する勇気”は、とても大事だと思います。この「figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様」は塗装もしてないし、モーターの配線もむき出しです。ギミックはfigmaを乗せるためのハッチが開くのと、モーター走行するぐらい。まず、「IV号戦車ってカッコいい形だな」「figmaを乗せたら、もっと細部に凝りたくなってきた」と思ってもらえる、器のような製品にしてみました。

渡辺 スケールモデルの世界が、「今度こそ○○の決定版を出します」と言いながら、ランナー(プラモデルキットの枠)20枚という壮絶な仕様に陥ってしまっていますよね。「決定版」という言葉の呪縛によって、初心者の近寄れない世界になってしまった。だけど今回は、そんな上級者向けではないフィールドに、IV号戦車の完成品をポンと落としてみたい。「おっ、カッコいい」とか「女の子を乗せたら、カワイイね」という原点に戻ってこられるのは、とても大事な気がしますね。


高久
 狙いどおりの価格で、狙いどおりのルックスの商品が作れました。このアプローチで、飛行機や自動車、いろいろな製品が作れると思います。パーツを細かく割って精密にするだけが、模型の作り方ではないはずです。



(取材・文/廣田恵介)

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  • figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様

  • figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様

  • figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様

  • figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様 ※「figma 西住みほ」「figma 秋山優花里」「figma 武部沙織」「figma 五十鈴華」「figma 冷泉麻子」は別売りです。

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