野球は楽しいだけじゃない。焦りと葛藤と敗北の痛み
続編となる「おおきく振りかぶって~夏の大会編~」は、見るなら第1期を見てからのほうがいい。桐青戦を終えた西浦ナインの次なる成長と試合が中心となる、全13話のエピソードだ。
アニメの制作には3年の間が空いたが、続けて見てもまったく違和感はない。まるで球場にいるかのような演出も第1期と変わらず、安心して楽しめる。
三橋が本当にチームのエースとなるまでを描いたのが第1期とすれば、「夏の大会編」で描かれるのは、三橋・阿部バッテリーのさらなる成長だ。
最初に比べれば、お互いかなり慣れたものの、バッテリーの相性は、やっぱりちぐはぐのまま。どうやったら三橋とうまくコミュニケーションできるのかと、阿部なりに悩む姿が微笑ましい。
そして阿部のリードを信頼するあまり、三橋は阿部の投球指示に一度も首を振った(拒否した)ことがない。それはバッテリーのあり方としてどうなのか? 2人は試合中、この問題と向き合わざるをえなくなる。
西浦ナインの中で、もうひとつ浮かび上がってくるのが、花井と田島のライバル関係だ。体格がよくパワーがある花井と、天才だが小柄な田島。花井はあらゆる局面ですぐれた野球センスを見せる田島に、対抗意識を隠せない。それはもう、苦しいほどに。
誰にでも、自分よりすぐれた存在に嫉妬したり、自分の力不足にへこんだ体験がある。実に人間らしい花井の葛藤に、思わず感情移入する人もいるだろう。
群像劇の度合いを増していく「夏の大会編」の中、もうひとつのテーマは「敗北の痛み」だ。ライバル校の選手やOBについても、それぞれのドラマが描かれる。
野球が好きで、すべてをかけたからこそ、敗北はときに深い傷を心に残す。たとえば、予想外に早かった夏の初戦敗退。たとえば、勝って当然と思われた試合での敗北。好きだったはずの野球への思いがゆがみ、何年もひきずることだってある。
「夏の大会編」後半のメインとなる西浦vs美丞大狭山高校との試合では、そんな影を心に秘めた人物が登場する。テレビ未放送のエピソード12.5話は、そのドラマの決着を描く重要な回なので、ぜひ見てほしい。
全国約4000校が出場する夏の甲子園大会で、その半数が初戦で消える。最終的に負けを体験せずにすむ高校は、ただ1校だけだ。現実の厳しさを考えると、なんとも言えない気持ちになる。
それでも、だからこそ、まっすぐに野球に思いをかける西浦ナインたちの青春はきらめいている。その時間を描くうえで、現実との地続き感を感じさせる水島監督の演出もまた光っている。いぶし銀のように。
第1期の第1話「ホントのエース」と第24話「決着」。そして「夏の大会編」の第1話「次は?」と第12話「9回」。頭のエピソードと、大きな試合が決着する回の絵コンテと演出は、水島監督が担当している。
「夏の大会編」第12話「9回」では、一塁から一気にホームまで駆け抜ける西浦の巣山尚治を、実際の試合中継ではありえない角度でカメラが追い、背景がぐるりと回るダイナミックなカットがある。ほんの一瞬のドラマチックな映像に、“終わり”の切なさと夏の土のにおいを感じた。
(文/やまゆー)