密度の濃い臨場感。球場の空気を感じろ!
作品紹介が先になったけれど、このアニメの見どころのひとつが、アニメ化で水島努監督が力を注いだという「高校野球のリアルな空気感」だ。これは特に、第1期14話からスタートする夏の初戦、桐青高校との試合で体感できる。
この空気感は、背景・音・群衆描写・テンポなどによって、手間をかけ緻密に作り上げられたものだ。
まず、背景。このアニメのルールのひとつとして、どのカットも必ずキャラクターの後ろに、バックスクリーンや観客席といった背景が描かれている。
アニメーションの表現のひとつに、キャラクターの後ろが無地やパターン、流線などで処理される「イメージ背景」というのがあるが、この作品は、それがほとんどない。
これにより作画の手間は飛躍的に増える。それをあえてやった分だけ、まるで実写のドラマのように臨場感は増す。そしてそこに立つキャラクターの存在感も、より“生きた人間”として感じられる効果がある。
次に、音。試合中にBGMはほとんど入らない。聞こえる音は、ボールがミットに収まる音、バットが打ち返す音、地面を蹴って走る足音、場内アナウンス、観客の声援、そして表と裏で切り替わる両校応援のブラスバンドだ。よく聞き比べれば、対戦する両校で、楽器の編成も異なる。これらの音の塊を受けて、まるでテレビで高校野球の中継を見ているような気分になる。
そして、群衆描写。観客席で観戦している人たちも、実に生き生きしている。特に第1期。野球の名門校・桐青高校の、ベンチに入れない部員たちがスタンドでする応援ダンスは、あまりにも作画が細かくて、口があんぐり空いてしまうレベルだ。
試合のテンポにも注意してみてほしい。この作品に、よくスポーツアニメにある、「一瞬を何十秒にも引き延ばす」シーンはほとんどない。可能なら、桐青戦の一気見をオススメしたい。あまり間合いを取らずにポンポン投げてポンポン打つ、かなりリアルに近い高校野球のテンポ感を味わえる。
徹底した演出から得られるリアルな感覚は、水島監督の意図するところなのだろう。「SHIROBAKO」を見ていて、抑制のきいた現実味のあるアニメ現場を見ていると、2つの作品に通じるものを感じるのだ。
そんな世界の中で、主人公の三橋だけが、挙動不審でコミカルな動きを見せて、独自の存在感を出している。さすが主人公というべきか。