MC:出会った当初の印象?
出渕:喫茶店かどこかで会いましたが、非常にずっとしゃべっている人、笑うと可愛い人だなと思いましたね。難しい話をずっとしてるけど、ふと笑うとかわいらしい笑顔で、これでみんな騙されるんだなと。思い知った。先日、斯波さんとお会いしたんですが、斯波さんが「押井くんは、みんなで羽交い絞めするか重圧があって、自分と違うベクトルのものを、ふざけんなこのやろうっていいながらやると、いいものが出来るんだよね」って言っていた。
出渕:実写もしっかりやっていくのだとしたら、女子高生が主役の映画を撮って、やりきるくらいな感じをちゃんとやってみせれば、この後もくるんじゃないかなと。
出渕:押井さんは、アーティスティックな部分とエンタメ部分をうまく出していた。『天使のたまご』のあとに『パトレイバー』シリーズとか。エンタメできるじゃん、って思わせて、自分の好きなことをやる。押井さん、その辺り自覚あるんですか?
鵜之澤:大体ご褒美を要求するんですよ。それで、「トーキング・ヘッド」をやらせた(笑)アニメじゃないのに、アニメのビジュアルの。
押井:あれは詐欺だって言われた。公開初日だかに観に行ったら、エレベータから出てきた男の子が、「これアニメじゃねーじゃん!」って怒ってた。中身は、ほとんど千葉くんがしゃべってるだけ。
出渕:「ケルベロス」(『ケルベロス-地獄の番犬』)の時は「今回はアクションだ!」って言って、こうやって騙していくんだと思った。
押井:台湾に言ったら、気が変わったんだよ。脚本あったんだけど、二日目から誰も(台本を)出さなくなった。映画は刻々と変わるんだよ。
出渕:エビを食べるシーンがすごい。押井さんは、食べるシーンに執着があると思った。そういえば、「今度のヒロインの子は可愛いんだ、ぶっちゃんの好みだと思う」って言われた。お前の趣味を見切っているんだみたいな言い方をされた。
押井:なんとなく分かるんだよ。あの子を見た時、ひらめいた。台湾で撮ろうって。でも撮影3日目で、やっぱダメなんだなと思った。いろいろあったしね。あの話はともかくとして、今2人が言ったことは、最近よくわかるようになった。つまり、何か原作をやるよさがようやく分かった。
鵜之澤:嘘だ!また新しい詐欺の手法だよ!
押井:いやいや!
鵜之澤:僕はバンダイにいて、アニメのスポンサーに入って関連商品を売るような仕事をしていたんだけど、僕は学生時代に「うる星やつら」を観面白いと思って観ていたんですね。で、渡辺って同期のやつが、ビデオの仕事をやっていて、「うる星やつら」をやることになった。あとは『紅い眼鏡』も、ビデオをバンダイから発売したこともあり、なんとなくお手伝いして。そうこうした時に、ゆうき(まさみ)さんや出渕さんから「パトレイバー」の話を聞きましたね。ちょうどガンダムが終わって、サンライズさんもガンダムはもう作らないっていう時だったので、何か違うもの、違うテイストのものを作りたいと思っていた。そして、演出家としての押井さんと仕事をすることに。まあ、いつの間にか(押井さんが)うるさいのと理屈が強いので、他のメンバー切り離したりもしていたんだけど…(笑)
出渕:ちなみに「パトレイバー」の時に降ろされたわけじゃないんですよ。
鵜之澤:「パト2」(パトレイバーthe Movie2)の時は敵だらけだったよね。
出渕:押井さんが求めているものはよくわかる。ただ自分に向いていないっていう。ケンカ別れしたんです。ただ、あの時押井さんがすごく評価してくれた。カトキっていうのがいて。カトキはガンダムだろって言われたけど。
押井:あの時は良かった。
出渕:人狼(『人狼JIN-ROH』)の時は、カトキ(カトキハジメ)は断ったんですよ。意外と根に持つタイプだから。「パト2」は言われたからやったけど、僕、押井さんの言ってること分からないんですよねってカトキが言っていた。
押井:「パトレイバー」の時のぶっちゃんの最大の功績は、あの2人を連れてきたことだね。あの2人じゃなかったら成立しなかったし、実写版もなかったと思う。「ヘルハウンド」(空想上の攻撃へりの名称)の縁ですね。
出渕:デザイン的にヘルハウンドじゃないんですよね。
押井:シネスコ向きだよね。そういうことを考えてくれる人が初めてだった。今回は、デザイナーを立てるよりも、実機を作ったから。
出渕:CGでモデリングしたんですか?
押井:設計図は作ったよ。美術監督の上條(上條安里)という方が。「永遠の0」とかをやっている、日本で1、2の美術監督です。今回の最大の功労者の一人です。実機のヘリを作ることには、色々あったんだけど、最終的に上條さんが「やりましょう」って言ってくれて、決まった。それで実寸に目覚めた。
出渕:実際作るのは全然違うんですよね。
押井:そりゃあ映画の醍醐味でもある。普段作れないもの作ったり、見られないものを見たり、行けないところに行ったり。実寸があると、現場の空気が違うんです。役者が安心して芝居が出来る。
鵜之澤:こうやって口説いて、お金を使うんですよ。
鵜之澤:クリスマスに、ぶっちゃんとか高田(明美)さんゆうき(まさみ)さんなんかで集まって、クリスマスパーティーをしたことがあったんですよ。押井さんはいないんだけどね。そのパーティーの後に、実は、って見せてもらったのがパトレイバーの企画でした。ちょうどロボットをやりたいって思っていた中で、面白いなと思った。ロボットとパトカーっていうのが良かった。テレビ(シリーズ)にしたいから、バンダイにスポンサーで入って欲しいって言われたんだけど代理店とか、バンダイのプラモデルの部長に難しいって言われた。
当時OVAもやってたけど、売れなくなっていたわけです。それで予算下げて作るのか?と。OVAよりもTVシリーズの方が安かったこともあって、それでギリギリ6本1000万で、35mmでやってくれってわがままを言ったりなんかして、やっと実現できた。ほとんどギャラは無かったし、印税もない。とにかく安く売りたかったから。その頃ですね、「100万本売れたらハワイ連れていく」って言ったのは。そのあと劇場版とかいろいろあって、最終的に100万本いったんですよね。
出渕:ゆうきさんが、週刊サンデーで連載できるならいいよ、って言ってくれた。
鵜之澤:10週連載させて欲しいって編集部にお願いした。印税はいらないって言った。ゆうきさんは長く連載されていて責任感もあったし、しっかりやってくれた。それが結果、大ヒットになった。
出渕:ビジュアルにもこだわっていましたよね。尾崎豊とかハウンドドッグとかをやってる音楽畑のデザイナー・田島照久にお願いしました。
押井:鵜之澤は、とにかく新しい商品とか商売の仕組みを作るのが好き。アイディアマンで、そこは評価してるんです。
MC:バンダイにNGって言われた後は?
鵜之澤:そのあとTVとか映画とかやりました。
出渕:プラモデルになるようなものを出せと言われたけど、あの世界観を破綻しないように出すのは苦労しましたね。
MC:「パトレイバー」はおもちゃのことは考えずにデザインしたんですか?
押井:当時のロボットは巨大。合体したり変形したり。でも、パトレイバーは違う。
MC:色も白と黒しかない。
押井:当時のルールみたいな感じで、赤青黄をロボットに使えって言われた。だけど、元がパトカーだから、白と黒にした。葬式かって言われた。当時は斬新だったんですよね。人間が操縦できる限界っていうか、あれ以上大きいと操縦できない。日本の建造物の2階から顔が見られるくらいがいいと思った。そういう世界観を大事にしようね、とも言っていた。
MC:実際見ると、身近な大きさですよね。
押井:いい大きさだと思う。去年吉祥寺でデッキアップをした時、僕は行けなかったんだけど、後から映像を観てみたら、下から見ると重量感があるし、角度によって大きくも、小さくも見えた。お台場のガンダムは、大きすぎて建築物に見える。あの大きさのロボットで、ディテールが無さすぎるんだよ。
出渕:スーパーロボットをかなり引きずったデザインですね、飾り角とか。
押井:かぶとね。
出渕:そういえば吉祥寺のデッキアップの時、おばあさんが通って、「なんで国がこんなことに税金使うのよ!」って言っていたらしい(笑)本当の警察もいたし、アニメをよく知らない人から見たらそういう感じだよね。
押井:リアル警官が来て、レイバーの近くに本物の警官がいるよって。
出渕:次は、下町でデッキアップしてほしい。
押井:アーケードでやりたい。すれすれの高さで。港とか開けたところでやっても絵になるんだけど、もっと日常空間にいると、もっと生々しい。場所によって変わるんだよね。今までデッキアップした中で一番良かったのは、雨!本当は劇中でやりたかったんだけど、やっちゃダメって言われた。
出渕:デッキアップは、また長編劇場版(『THE NEXT GENERATION パトレイバー首都決戦』)の時にやるかもしれないね。
押井:今は、依頼があればどこでも行く。地元の許可をとってもらい、お金を出してもらう。実費を払っていただければどこでも行きます。
出渕:実際、倉庫の管理費だけでお金がかかるんですよ。
押井:今も東北新社さんが倉庫代を払って管理している。実際、寄贈してくれっていう話もあった。違う場所に移動するだけでお金がかかるから、壊すのも難しいんですよ。
(パトレイバーのデザインスライドを見ながら★最初のデザイン)
押井:当初は、ぽんこつみたいなロボットにしてほしいって言ったことがある。動きそうもない、お荷物みたいなのがいいって思った。でも、そのまま通っていたら、6本のOVAだけで終わったかもしれない。でも僕はいまだに98式イングラムが好きじゃない。
鵜之澤:僕はプラモデルを作るためにやってるんだから、ポンコツはダメだな(笑)
(決定版の絵/CGを見せながら)
押井:やはり立体になると説得力が出てくる。やっぱり女の子とメカに関してはみんな頑固になる。顔がないものも気に入ったけど、ロボットは顔だ!って言われたのと、いろいろあって、それでいざ立体で作ってみようってなったら、僕が説得されちゃった。
出渕:たけちゃん(竹内敦志)がデザインしたのは?採用しなかったの?
押井:CGが作りやすいように考えたわけ。絵だけを見ていると、例えば歩くのに邪魔になったりする。これがすべての出発点だった。
(最終工程を見せる)
押井:鬼頭くん(鬼頭栄作)のモデルをスキャンしたとして、そしたら食い込んじゃう。股関節のストロークが違うわけ。歩けることを前提とすると、こういうデザイン(完成版のもの)になる。このデザインじゃないとありえない。動かしてみないと分からない。驚いたのは、構えた時に、パトライトが後ろにいっちゃうんです。それは面白いなと。発見でしたね。足のパーツは、ちゃんと歩くためには、パーツ数を増やすしかないんだと思った。ガンダムみたいな偏平足じゃ歩けない。役者と映ると、足は目立つんですよ。パーツを見ると、全体のスケール感が分かる。
いいものは、壊れた時も、いい。壊すなら、実寸で壊したものを作りたい。CGとか紙とかよりも、本物を作りたい。
MC:最後に一言
鵜之澤:企画自体は前から聞いていましたが、熱海の前・後編(「大怪獣現わる前編・後編」)を観て、そして今回のを観て、あの時代が返ってきたなと思いました。まさかあの続きがみられるとは。って、グッと来ました。このプロジェクトを継いでいる方にありがとうと言いたいです。出来上がって、全て公開された後に評価されると思うんですけどね。
出渕:僕は…実は観ていません。なぜかというと、まとめてみたいし、今回色々あったので…。いろんな人が嬉しそうな顔で「(TNGパトレイバー)どうでした?」っていうの。「観てない」って答えるのが楽ですね。
あと出来れば…(実写化にあたって)プロセスは踏んでいただきたかった。反対するわけじゃないんだけど、なんでプロセスを飛ばすのかなって。面倒な事とか、いろいろあるのはわかるけど、プロセスを踏んでほしかったです。
鵜之澤:僕も言われてるんだよ。
出渕:僕は、他の人から別ルートで聞いていたんだけど、押井さんから段取りがあるかなと思ったらなかった。それで、大変なことになるなと思った。その辺りは、お願いしたいと思います。
MC:本日の感想?
出渕:なかなかできない話で。こんなんで良かったのでしょうか。面白くしすぎると止められそうだし…喜んでいただければ幸いです。
鵜之澤:吉祥寺のデッキアップの日は、実は出渕・高田・ゆうきと僕とで飲んでました。新宿で、押井さんの文句を言う会を開いていた(笑)みんなが酒飲みながら、(吉祥寺の様子をSNS等で見て)嬉しそうにしているのを観て、パトレイバーへの愛情を感じました。僕もパトレイバーのおかげで力をつけさせてもらったので、みんな似たような年ですけど、これからもみなさんお付き合いいただければ幸いです。
押井:たまに会う分には、ぶっちゃん良い奴だなって思うんだけど、仕事し始めるとダメになる。こういう感じがいいんだよ。5年経ったら。また会おう!鵜之澤は、最後までこういう付き合いをするんだろうと。鈴木敏夫は絶対に仕事したくないんだけど(笑)鵜之澤とは、もう一回くらいやるのかな?定年までもう一回くらいチャンスがあるのかなって。
年をとると、かつて一緒に仕事をしてきた人間が、年をとってもまだ一緒にやっているのは良いもんだなと思った。
「マモルの部屋」は7回もやって、楽しかったり、怒ったり、いろいろありましたね。印象深かったのは鈴木敏夫ですね。今回も意外に面白かったですね。2人は絶対来ないと思った。まあ、私も大人だから公衆の面前でケンカする気はないんだけど。7回、いろいろあったけど、とにかく面白かった。こういう事でもないと会わないだろうし。
もっときれいどころ呼びたかったな。キャスティングは僕ではなかったから、次は自分でキャスティングしたいです。
どうもありがとうございました。
・『THE NEXT GENERATION パトレイバー』シリーズ全7章
4月5日より新宿ピカデリーほか上映開始!(0話:約15分、1~12話:各約48分)
公開日:[第1章]4月5日[第2章]5月31日[第3章]7月12日[第4章]8月30日[第5章]10月18日[第6章]11月29日[第7章]2015年1月10日
出演:真野恵里菜、筧 利夫、福士誠治、太田莉菜、千葉 繁 ほか/
総監督:押井 守/音楽:川井憲次/原案:ヘッドギア/
制作:東北新社、オムニバス・ジャパン/配給:松竹メディア事業部
・『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』 長編作品
2015年5月1日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開(約100分)
出演:筧 利夫、真野恵里菜、福士誠治、太田莉菜、千葉 繁、森カンナ、吉田鋼太郎、高島礼子
監督・脚本:押井 守/音楽:川井憲次/原案:ヘッドギア/
制作:東北新社/VFX制作:オムニバス・ジャパン/配給:松竹
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