一見地味な26人の生徒たちそれぞれに、再生のストーリーがある
一度見たらそらで描けそうなぐらい、シンプルで個性的な造形の殺せんせーに対し、3年E組の生徒たちは何と言うか、地味だ。26人の生徒たちの中に特別目を引くような美少年・美少女はいない。キービジュアルをパッと見て覚えられるのは、髪の色が青・赤・緑の3人、潮田渚(しおたなぎさ)、赤羽業(あかばねカルマ)、茅野(かやの)カエデぐらいだろう(その3人が目立つメインキャラクターという理解で、そう間違ってはいないけれど!)。
アニメでは、この地味~な生徒たちと、奇抜なタコ教師によるほのぼのゆるやか学園コメディが展開中だ。先生はヘンチクリンだし、生徒が先生をコロスコロスと言っているのに、コメディタッチで最後はイイ話っぽい。この話、どこを楽しみに見ていけばいいのだろうか?
「暗殺」が中心になっているが、ストーリーのテーマは、学校の行きすぎた管理教育に自信を根こそぎ奪われた生徒たちの再生物語だ。
モブに見える生徒たちにもそれぞれの物語があり、誰もが自分の人生の主人公だ。殺せんせーは生徒たちを暗殺者として鍛えながらそれぞれの長所を見つけて、きめ細かい指導によって個性を伸ばし、自信を取り戻す方向に導いていく。
この話がユニークなのは、生徒たちの自信が、「暗殺」のテクニックを学ぶ中で身につくところだ。教えてくれる殺せんせーを暗殺するための技なのに、教えるほうも教えられる側も生き生きとして、互いへの信頼を深めていく。その、一見矛盾した不可思議さ。
最初の段階で、オープニングにずらずらと出てくる生徒たちの名前を覚える必要はない。一見、名もないモブキャラクターに見える生徒たちの造形は、たぶん原作者の意図のうちなのだ。どうでもいい人間なんてひとりもいないし、みんな何かしらいいところや取り柄を持っていて、それは目的遂行のための武器となる。
このテイストは、今となってはだいぶ前のアニメになるが、「絶対無敵ライジンオー」(1991年放送)や「デジモンアドベンチャー」(1999年)に通じるものがある。「絶対無敵ライジンオー」では、小学校のひとクラス全員18人が「地球防衛組」となって、地球を侵略する悪の宇宙人と戦ったし、「デジモンアドベンチャー」では、異世界に飛ばされた無力でワガママな8人の子どもたちが、最初は元の世界に戻るために、やがて世界を守るために一致団結していった。誰もが小さな知恵と勇気をふりしぼることで困難を乗り越え、仲間と力を合わせながら、自分の存在価値を確かめていった。
「暗殺教室」でも、原作では生徒それぞれの個性と背負うものが順に描かれていく。アニメでも、エピソードが積み重ねられる中で、ひとりひとりと知り合っていけるだろう。どんな個性にも生かしどころがある。適材適所でどんな個性も輝く意外性は、見どころのひとつだ。
(C) 松井優征/集英社・アニメ「暗殺教室」製作委員会