――NHKとしてのNG基準はあると思うのですが? たとえば、萌え系のアニメは放送しないとか……
萌えがダメなわけではありませんが、萌え要素だけしかない作品は、NHKでやる意味を見いだせないという程度ですね。
――血の出るような描写はNGですか?
暴力表現については、見せ方次第だと思います。「キングダム」(2012年)や「十二国記」「ログ・ホライズン」(2013年)でも血は描写しています。ですが、血を見せたいからアニメ化したのではなく、訴えたいテーマがあるからです。アニメとしての迫力だけにこだわらず、テーマを伝えるために必要な表現は何なのか、それが放送としてふさわしいのかを、脚本、絵コンテ、アフレコの各段階で配慮はしています。
――考査室とは、激しくやりあうんですか?
いえ、そんなことはありませんが、よく相談には行きますね。NHKとしての考え方を確認したり、過去の事例を聞いたりして、常に判断の材料を持てるようにしています。NHKは放送局として番組を作っているので、放送できないシーンを作ることはありません。DVDやブルーレイも、基本的には放送したものをそのまま収録します。
――その一方で、多くの人に見てもらうための工夫も必要だと思います。
もちろんテーマ性も重要ですが、アニメなのでエンターテインメント性、面白さも大事です。テーマの強く出た作品もあれば、コメディタッチだけど裏にテーマのあるもの、両方ありますね。直近の例でいうと、「目玉焼きの黄身 いつつぶす?」(2014年)。原作はギャグマンガですが、奥は深いでしょう。硬い言い方をすれば、他者の考え方を受け入れることや異なる価値観の発見を描いていますよね。ですから、「バカバカしいからダメ」ではなくて、「バカバカしくてもアリ」だと思ってください。
――「山賊の娘ローニャ」(2014年)が面白いのですが、どういう経緯で生まれた企画なのですか?
同じNHKの有吉というプロデューサーが、ジブリの鈴木敏夫さんのところに「宮崎吾朗監督で、親子で見られる企画をやりたい」ということを打診したのがきっかけです。ちょうど、ジブリ内でも鈴木さんの元でプロデューサー見習いをしていた川上さんを中心に吾朗さんの次回作を模索していた時期だったそうです。作品についてはいくつか候補があったようですが、最終的に「山賊の娘ローニャ」をドワンゴさんからご提案いただきました。
――評判はいかがですか?「ローニャがかわいい」「CGでも、あそこまでできるんだ」という声が、最初は多かったですね。お話が進んでビルクが登場してから、さらに「面白くなってきた」という声が増えました。BSプレミアム枠なのでEテレとは視聴者層が違うのですが、小さなお子さんにも見ていただけています。山賊の娘というユニークな設定ですけど、そこが面白いんですよね。
――スタジオジブリは、どう関連しているのでしょう?実際の制作上の役割は、原作サイドとの交渉窓口です。これはかつてジブリさんで映画化を検討したことがあって既に繋がりがあったからです。今回の制作会社はドワンゴさんで、アニメーションはポリゴン・ピクチュアズさんが担当しています。
――来春から、高橋留美子さん原作の「境界のRINNE」がスタートしますね。「NHKで放送するの?」と意外に思ったのですが。長く放送するのでしょうか?意外ですか(笑)? 高橋留美子さん原作のアニメは民放で長く放送してきたので、そういうイメージがあるかもしれませんが、NHKで放送してもおかしくない内容だと思います。「NHKでは何クールやります、と最初に決めるのではなく、基本的に単年度ごとに決めていきます」。ですから、どれくらい長くシリーズが続くのかは未定です。
――NHKの長期アニメだと、「メジャー」(2004年)がありますよね。「メジャー」のアニメ化が決まったのは漫画連載の途中でしたし、初めから「原作の最後までアニメにしよう」と決めていたわけではありません。放送してみたら評判がよかったので、結果的に長く続きましたね。
――確か、シーズンごとに間隔が空いていましたよね。そうです。半年放送したら、半年再放送……というパターンがありまして、「メジャー」も同様です。オリジナル作品で長期シリーズだと、「おじゃる丸」(1998年)があります。原案は犬丸りんさんですが、原作漫画があったわけではないんです。