不思議な「ミニロバ」が不器用な2人の恋を後押し
「東京マーブルチョコレート」は、「Production I.G 20周年記念作品」として制作されました。漫画家・谷山史子さんによるキャラクターデザインと、SEAMO、そしてスキマスイッチの楽曲とのコラボレーションが話題のひとつである。
この作品は、30分弱のアニメ2本立てで構成されている。チヅルの視点で描く「マタアイマショウ」編(主題歌はSEAMOの「マタアイマショウ」)と、悠大の視点で描く「全力少年」編(主題歌はスキマスイッチの「全力少年」)である。
雪が降りしきる東京のどこかで、こらえきれない涙をこぼして、泣きながら歩いていく女の子、チヅル。一方、息を切らして懸命に走る青年、悠大。なぜ2人はこの状況にあるのか? 開始早々の切ないシーンから、物語は少し時間をさかのぼって語りおこされる。
クリスマス間近の東京で、2人はそれぞれにある決意をします。マジメで不器用な青年・悠大は、「今日こそ彼女にちゃんと好きだと伝えたい」。明るくてドジな女の子・チヅルは、「もう今日で2人の関係を終わりにしよう」。さてデートの結果、この2人はどうなったのでしょうか?
ささやかな幸せを夢見ながら、すれちがってしまう2人の心。その間をコミカルにつなぎ、2人の思いと行動を後押しするのが、奇妙な動物「ミニロバ」です。ミニロバはこの世界のペットショップで売られている、「ごく普通の」動物。非常に表情豊かで不細工かつ、かわいく、怒ると凶暴性を発揮するという頼もしい(?)一面も持っています。人語こそ話さないものの、子ども向けアニメに登場する「主人公の友であり、相談相手でもあるマスコット」に、役割としてはよく似ている。
狂言回しのミニロバは、塩谷監督が生み出し、デザインしたキャラクター。こんなユニークな生き物が、思い悩むときに話し相手になってくれたり、背中を押してくれるとしたら……? これはアニメには珍しい、大人が主人公のファンタジーといえるでしょう。
舞台は東京ですが、ミニロバの存在のせいか、あまりリアルには感じません。少女マンガらしい透明感のあるタッチで描かれる街並み。現実よりは、意外と近い距離にあると感じられるふたつのタワー。サラリーマンでごった返したりはしていない電車。あれこれ考え合わせると、この話の舞台は「空想上の東京」といってよさそうです。
ちなみに、東京スカイツリーが完成・開業したのは2012年。この作品が制作された2007年の時点では、まだ「東京スカイツリー」という愛称も決まる前で、「ふたつのタワーが立つ東京」という設定自体が、少し未来の夢の光景でした。
「東京マーブルチョコレート」の作風は、正直なところ地味目。ラブストーリーとしても、万人の切なさの「胸キュン」のツボを押すような力強さにはやや欠けます。けれどその分、ていねいに作り込まれたリアルとファンタジーのバランスのよさと、職人的な演出が光っている。
Blu-rayやDVDのジャケットイラストに使われているキービジュアルは、企画当初に塩谷監督が描いたイラストを元にしています。東京タワーを背景にミニロバとともに落下・浮遊しながら、手をとりあう悠太とチヅル。恋する2人に訪れる夢のような一瞬のイメージを視覚化したもので、実写では決して描けない、アニメならではの情景といえるでしょう。