いま、作画のメカアニメを作る意義
――「ガンプラビルダーズ」ではプラモのリアル感を出していましたが、本作「ガンダムビルドファイターズ」はガンダムがそのまま戦うような演出をしています。バンダイの方とは演出面について打ち合わせはありましたか?
今回のアニメのひとつの課題はガンプラ新規層の拡大でしたので、「ガンプラビルダーズ」のような演出をしてしまうと、プラモを好きな人は喜ぶんですが、詳しくない人からすると「だから何?」というふうに捉えられてしまうし、テンポ感も悪くなってしまうんです。それより、もともとのガンダムもそうだったんですけど、いかにメカをカッコよく見せるか、何も知らない子供に見てもらうには最低限そこはクリアしなくてはいけなかったんです。ですので「プラモのリアル」にこだわった演出にする必要はありませんでした。そこは監督にも「ガンプラビルダーズ」でも脚本を書いていた黒田さんにも了承してもらったうえで対処しました。
「ガンプラビルダーズ」では、パイロットスーツを着込んでコックピットに入る描写をしていましたが、そこも一考したところでした。最近はまた乗り込む系のロボット物が増えていますが、「何かに乗って操縦する」というスタイルは作っている側の憧れに過ぎなくて、今の子供からは世代がずれてきているんじゃないか、という話はガンダムを作るときもけっこう出てきました。
車に乗るよりもスマートフォンのほうが欲しいんじゃないかと。ポケモン以降に育った世代からすると、操縦というよりもコントローラーの感覚で、せいぜいゲームセンターのレバーが限界かなと。アームレーカーを使った操縦システムにしたのはその中間点を探っていった感じですね。でも、このシステムが受けたらいつかバンダイさんが本当にこのバトルシステムを作りかねないぞと冗談で言っていましたが(笑)。あれが実用化したらみんなもっとガンプラを買うようになります(笑)。それを代替するのがゲームだったり、低年齢層に普及している「トライエイジ」のようなカードゲームかなと。その辺りは「AGE」からバンダイさんといっしょにやってきたことでうまくいった部分かなという気はします。
――バラエティ豊かなモビルスーツが登場しましたが、あれは皆さんの合議で決まっていったのでしょうか?
ある程度、商品化が決まっている機体についてはバンダイさんと相談して決めています。そこから外れているものについては35年間やってきたガンダムのモビルスーツの量があるので、全体を見てバランスを取りつつ登場させました。あとはアニメーターさんがモチベーション高くやってくれる部分として、お任せできるところはお任せでお願いしました。メカ描写はCGでやるという作品が増えている中、全編作画でやるということで、いろんなメカアニメーターが参加されていました。若手のメカアニメーターがなかなか育っていないとよく言われるんですが、幸いにしてこのスタジオは「ガンダムSEED」からずっと作画でメカをやってきたおかげで、何とか下の世代も育ってきてくれているので、今回も何とかなったかなと。
――そうしたアニメーターたちを集めるのもプロデューサーや制作デスクの方々のお仕事だそうですね。これはサンライズ全般的に言えるかどうかわかりませんが、制作って人付き合いから仕事が生まれているので、自分も12~13年やっている中で、知り合っていっしょにやってきてくれた人の縁があってのことなんです。大張正己さんにしても「AGE」の途中からオープニングの絵コンテや演出をやってくれた縁ですし、デザインワークスの海老川兼武さんも「00」から。キャラクターデザインの大貫健一さんに至っては「ガンダムSEED」からの付き合いですし、チーフメカアニメーターの有澤寛くんもそうです。彼はひとつ年下でお互いが新人だった頃から知っています。こうやって自分がプロデューサーになってからではなく、そうなるまでに仕事で付き合ってきた人たちとの信頼関係で成立したのかなと。いっぽうで、今回の作品のために集まってくれた人たちも少なからずいるので、それは今後に向けてつなげていきたい部分ではあります。もしこの業界を目指している人がいるのであれば、「下積みが大事なんだよ」とお伝えしておきます(笑)。特にアニメは自分が作りたいからといって、ひとりで作れるものでもないし、うまくいったときはみんなでその喜びを味わえるわけです。そこも含めてこの業界に入ってきてくれればいいなと最近思っています。
――本作は「00」や「AGE」と比べてメカのカット数は多いほうですか?減ってはいないという感触ですね。枚数的には普通かなと。かけすぎな話数もありましたが、一番大事なのはそれがきちんと視聴者に伝わるかです。作り手側の自己満足で終わるような描写でお金と時間をかけるのはまったくの無駄なので、それは今までの経験があったからこそですし、やっただけの意味はあったかなという感じですね。
――メカってやはり労力がかかるんですね。効率とコストを考えると、今だったらCGにしたほうが早いと思いますし、視聴者側も昔ほどCGに拒否反応はない気がします。「ダンボール戦機」とか「マクロスF」はCGでうまくいったケースでしょう。ただ、良くも悪くもガンダムには35年前から付き合ってくれている昔からのファンがいますし、ガンダムを手で描きたいと思うアニメーターさんがいるうちは、その思いには応えてあげたいなという気持ちもあります。もちろん、予算や労力との相談ではありますが、そこをうまいこと現実のラインに乗せるのがサンライズの制作の仕事かなと思います。
――企画の根本で「禁じ手」にしたこととしては何がありますか?
基本は前向きなテイストで、初見の人に向けてハードルを上げ過ぎないことですね。これは黒田さんが気を使ってくれたんでしょうけど、最初の1クールは極力1話完結にして、バトルがない話数を作らないことですね。あと先ほども申し上げた「人が死なないこと」。アイラ絡みのところでどうしても描写的がシビアになるのはわかっていたので、そこは難しくもありましたが、最終的には監督と黒田さんがうまくキャラを作ってくれました。他のガンダム作品だったら必ず不幸になるパターンですからね。彼女の絡みはコメディチックになりつつも明るく終わることができた代表例かなと思います。
――明るい要素で言うと作中でカップルが多かったですね。そこはあまり監督や自分は気にしていないところで、どちらかというと必然的にそうなっちゃったという。逆にカップルばかりになったので、ひとりくらい一時的に不幸にするかといって、マオとミサキのところにいろいろ盛り込んで面白くしました(笑)。