「オープンソースの概念を導入した創作活動」 立命館ジャパニメーション批評サークル-RICS-

アキバ総研 | 2007年10月31日 10:00

「オープンソースの概念を導入した創作活動」 立命館ジャパニメーション批評サークル-RICS-「立命館ジャパニメーション批評サークル-RICS-」連載コラム第1回



オープンソースの概念を導入した創作活動


現在のオタク文化では,オープンソース現象と見て取れるような,創作活動が行われている.
これは,今までの創作活動とは明らかに異質で,また既存のビジネスモデルからも逸脱している.
本稿では,この新しい創作活動である”オープンソースの概念を導入した創作活動”について紹介し,これからのオタク文化を考えるためのヒントを提示してゆきたい.


オープンソース現象


オープンソース現象とはオープンソースとは 【open source】 - 意味・解説 : IT用語辞典にあるように
ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを,インターネットなどを通じて無償で公開し,誰でもそのソフトウェアの改良,再配布が行なえるようにすること.また,そのようなソフトウェア. 
という説明がよく行われる.しかし一般には,”無料で公開・再配布”という部分ばかりがフューチャーされてしまっているし、そう考えている人の方が多い.wikipediaでも
日本においては「オープン」「ソース」という語感から受ける印象が一人歩きしたためか、ソースコードが無償で公開されていることを基本とした様々な定義(のライセンス)に「オープンソース」という表現が使われている
と苦言を呈しているほどである.しかしこの無料公開・再配布はオープンソースの本意では無いし,本稿で注目するところでも無い.今回注目するオープンソースとは,梅田望夫の”ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる”でいう
「何か素晴らしい知的資産の種がネット上に無償で公開されると、世界中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びつくことがある」ということと「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では,司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央になくとも,解決すべき課題(たとえそれがどんな難題であれ)に関する情報が共有されるだけで,その課題を次々と解決されていくことがある」
(ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる) 
…という,まさに現象についてである.
Web2.0と通ずるところもあるのだが,『ネット上に不特定多数無限大存在する能動的な表現者たちを巻き込む製品開発』が本意なのである.

こういった革命的とも思える,製品・商品開発がネット上で行われ,LinuxやMozilla Firefoxなどの優れた功績を既に挙げている.

Wikipediaも代表的なオープンソース現象によって作り上げられたものなのだが,ここで行われたオープンソース現象とは,「ネット上で”百科事典を作ろう”と呼びかけた結果,世界中の知識を持った人(特殊な知識やらなにやら)がこのプロジェクトに自発的に参加し,難しい言葉の意味や,理解をネット上で議論し,既に16万項目(日本)に及ぶ巨大な百科事典を作ってしまった.」というムーブメントのことを指す.


ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』


上述したオープンソース現象を取り入れた創作活動の具体例として,紹介したいのが「ニコニコ動画で行われている創作活動」である.ニコニコ動画に対して否定的だったり,関心が無い方にも理解できるように書くつもりだ.できるがぎり頭で面白さが理解できるように紹介する.

”組曲『ニコニコ動画』”とは,ニコニコ動画(β、γ)で有名な33曲がユーロビート風にアレンジされてできたメドレーであり,以下(一番下)に示す曲で構成されている.(ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』

この”ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』 ”は見ていただければ解ると思うが,音源だけで,動画も無いし,歌詞も無いし,歌も入っていない.この状態の動画がアップロードされたのが記録を見る限りは2007年6月23日である.

そしてこの不完全な状態(*1)でアップロードされた動画をウェブ進化論でいうところの”素晴らしい知的資産の種”であったとし,アップロードされることにより,”ネット上に無償で公開された状態”になったとして,ニコニコ動画中の知的リソースがその種の周囲に自発的に結びついた…のが今回ニコニコ動画で行われたオープンソース現象だと私は理解している.
先ず,この動画が発表された後,彼らは同時多発的に『動画をつける』,『歌詞を考える』,『歌う』といったそれぞれが得意とする創作活動を開始した.

* ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』をとにかく勢いで歌ってみた。 2007年07月05日(歌)
* ニコニコ動画(RC) ‐10分で振り返るラピュタ ?組曲『ニコニコ動画』ラピュタver? 2007年07月14日(動画+歌詞)
* ニコニコ動画(RC) ‐組曲『コンビニ店員』??オレのバイト人生??(ヤケクソ) 2007年07月20日(紙芝居+歌詞+歌)
* ニコニコ動画(RC) ‐そこらへんに転がってそうな少女が組曲「ニコニコ動画」を歌ってみた。 2007年07月16日(歌)

などなど多くの作品が発表された.そうした玉石混合の有象無象が発表される中,『歌う』という活動をされていた人の中から,玉が抽出され始めた.この”玉の抽出”もコメントや再生数,マイリストへの登録数などを基準としたWeb2.0的な抽出方法で行われた.(以下に抽出された玉のいくつかを示す)

* ガチ姉 :ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』にごめんして。(ガチリベンジ) 2007年07月11日
* フーミン:ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』46時間寝てない勢いで歌ってみた 2007年07月11日
* いさじ :ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』を漢らしく歌ってみた [いさじ] 2007年07月15日
* ゼブラ :ニコニコ動画(RC)‐俺組曲『ニコニコ動画』(Ver.ゼブラと愉快な仲間たち)2007年07月06日
* 内緒妹 :ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』 兄にばれたけど歌ってみた。 2007年07月13日
* Re   :ニコニコ動画(RC) ‐Re: 組曲『ニコニコ動画(ちょっと全部俺)』 2007年07月13日
* ニコ姫 :ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』お兄さんが寝てるから一人で歌ってみた 2007年07月11日

ここで面白いのは,フーミンやガチ姉,内緒妹などの名前もネットの不特定多数無限大に存在する人々が勝手につけたところだ(題名から連想されるものや、声質などから付けられた).彼女彼らのキャラクター付けすらオープンソース的な形で作られていった.

多少話が前後するが,上述した原曲?の組曲『ニコニコ動画』に入っている曲の選定も,組曲『ニコニコ動画』を作った個人では無く,ニコニコ動画全員の総意による選定であったように思うし,そうでなければ,これほどのムーブメントにならなかったであろうことにも注目すべきだと思う.

話を戻すが,そうして”玉”として認知された彼らを,ネット上の誰かがリミックスして発表した.(個々で歌われている組曲『ニコニコ動画』を編集したもの)

* ニコニコ動画(RC) ‐魁!漢組曲!- Re: いさじ ゼブラ J - 2007年07月17日

おそらくリミックスとして発表された第一弾はこれである.これを受けて二日後には

* ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』5人混ぜて大合奏! 2007年07月19日

がまたネット上の誰かによって発表された.このバージョンではまずゼブラ,フーミン,内緒妹,ガチ姉,ニコ姫というキャラクターを固定化させた.おそらく顔も知らないであろう彼らをSDキャラで登場させている.

そして、この動画のコメントに多くのリクエストが寄せられて(*2)

* ニコニコ動画(RC) ‐組曲『ニコニコ動画』5人混ぜて大合奏!ver.2 2007年07月22日

が発表された(これは上記と同一人物).このバージョンでは上述したキャラクターに追加して,いさじとReのキャラクターが固定化された(*3).

(今後もしかしたら、SD化し,キャラクター化された彼らをネタに同人誌を描いたりするひとが出てくるかもしれない.)

ここで注目すべきは,名前を付けたり,キャラクター化させたりすること(もちろんリミックスしたりすることも含める)を当事者(歌っている彼ら)が要求したわけではなく,ネット上の不特定多数無限大に存在する人々の手によって自発的に行われた点である.これはインターネットを擬人化してC「誰かが要請した訳ではなく,インターネットの意思によって行われた」と見るべきかもしれない.(*4)

以上が現在ニコニコ動画で行われているオープンソース現象の全体的な流れである.

驚く無かれ,こうした組曲『ニコニコ動画』を中心とした一連の創作活動はたった一ヶ月の間に行われたことなのだ.

誰かがリーダーシップを発揮してまとめていった創作活動でもなければ(*5),明確な目標があったわけでもないのに、これだけの創作活動が行われたことには純粋に感動できる.

(今回は素晴らしい作品ができたかどうかは問題にしない.製作者のモチベーションやアイディアの連鎖反応とも言うべき現象を目の当たりにできた喜びである.)
背筋をゾクゾクさせるような興奮を味わってしまった。(中略)創造の結果だけでなく過程を共有することによって参加者が互いに触発し合い、これまでに無かったもの、素晴らしいものを作ることができるのだ。それはまた、無数の凡人が互いに思考を共有し、足りない部分を補い、アイディアの連鎖反応を起こすことにより、より大きなインパクトを(大げさに言えば)文明に与えることを可能にするのである。これまた大げさな言い方をすれば、より多くの人に、「自分の生きた証」「自分のいなくなった後に残るモノ」を残す道を開いた、と言っても良いかもしれない。(中略)

プロジェクトに参加した人々も、自分の貢献したアイディアが大勢の命を救う製品に、まるでジグゾーパズルが少しづつ出来上がるようにはまり込んで行く感覚を味わったはずである。
Sotto Voce: The Art of the Blog: Open Source Everywhere
いろいろ批判めいた文句は言えるわけだが,少なくとも”新しい創作活動”が行われているのは確かだろうと思われる.新しい創作活動であるが故に不完全な部分も多いが,それでも私は応援していきたい.

次稿は,このオープンソース現象を取り入れた創作活動が,どんなビジネスモデルと提示できるかをお話したい.

組曲『ニコニコ動画』
曲目(とアーティスト)リスト

* 01 - エージェント夜を往く / LindaAl-CUE
* 02 - ハレ晴れユカイ / 涼宮ハルヒ(平野綾)、長門有希(茅原実里)、朝比奈みくる(後藤邑子)
* 03 - 患部で止まってすぐ溶ける ~ 狂気の優曇華院 / IOSYS
* 04 - Help me, ERINNNNNN!! / ビートまりお
* 05 - nowhere / FictionJunction YUUKA
* 06 - クリティウスの牙 / 光宗信吉
* 07 - GONG / JAM Project
* 08 - 森のキノコにご用心 / 下村陽子
* 09 - Butter-Fly / 和田光司
* 10 - 真赤な誓い / 福山芳樹
* 11 - エアーマンが倒せない / せら
* 12 - 勇気VS意地 / 佐橋俊彦
* 13 - アンインストール / 石川智晶
* 14 - 鳥の詩 / Lia
* 15 - you / dai
* 16 - 魔理沙は大変なものを盗んでいきました / IOSYS
* 17 - 思い出は億千万 / 蒼い牙
* 18 - God knows... / 涼宮ハルヒ(平野綾)
* 19 - もってけ!セーラーふく / 泉こなた(平野綾)、柊かがみ(加藤英美里)、柊つかさ(福原香織)、高良みゆき(遠藤綾)
* 20 - ガチャガチャへるつ・ふぃぎゅ@ラジオ / MOSAIC.WAV(みーこ)
* 21 - 創聖のアクエリオン / AKINO
* 22 - ふたりのもじぴったん / 神前暁
* 23 - つるぺったん / Silver Forest (Kana)
* 24 - Here we go! / 近藤浩治
* 25 - true my heart / ave;new feat. 佐倉紗織
* 26 - kiss my lips / ave;new feat. 佐倉沙織
* 27 - RODEO MACHINE / HALFBY
* 28 - 序曲(DRAGON QUEST) / すぎやまこういち
* 29 - FINAL FANTASY / 植松伸夫
* 30 - ガチャガチャきゅ~と・ふぃぎゅ@メイト / MOSAIC.WAV(みーこ)
* 31 - あいつこそがテニスの王子様 / 佐橋俊彦
* 32 - レッツゴー!陰陽師 / 矢部野彦麿(でんちゅう)&琴姫(MOMOEIKA)
* 33 - さくら / 山田耕筰 feat. Fooさん
ニコニコ部 - 組曲『ニコニコ動画』
*1:ある種完成されてはいるのだが、あえて不完全であったとさせてもらう。これは作者を冒涜するような意はない

*2:この場合ニコニコ動画で書き込まれるコメントは感想や批判といったものではなく、創作上のアイディアであると見たほうがよいBコメントすることにより、誰もが創作活動に参加できるのである。

*3:いさじは既に固定化していたけれど

*4:「グーグルの連中に際立つ特徴は、インターネットを擬人化して話すしゃべり方ではないかな。こういう姿になりたいという意思をインターネット自身が持っている。自分たちはその意思に導かれて技術開発をしている。彼らの言葉の端々からそんな雰囲気を感じる。しかもそのことを皆、誇らしく思っている」(ウェブ進化論)

*5:「モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央になくとも、解決すべき課題(たとえそれがどんな難題であれ)に関する情報が共有されるだけで、その課題を次々と解決されていくことがある」(ウェブ進化論)


元記事
WebLab.ota - ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』
WebLab.ota - オープンソースがオタク文化に齎す可能性

著者:ヴァル
ブログ:WebLab.ota

 



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