アニメ業界ウォッチング第4回:「ドワンゴ」執行役員 太田豊紀がアニメビジネスを語る!

2014年04月25日 12:000


「セーラームーン」新作、そして「animeloLIVE!」が作るドワンゴのアニメビジネスと、パッケージ業界の未来



――2月13日のIRにて、ドワンゴは「アニメへの出資事業」をグループ会社の「MAGES.」に移管すると発表されましたが、この意義と目標についてお聞かせください。

MAGES.は、ゲーム開発、音楽、タレント事務所とスクール、そしてアニサマをはじめとしたイベントと、一番多岐にわたる事業をしています。つまり一番出口が多い会社なのでそこに出資事業をまとめることで活用ができるのではというのが理由です。私もMAGES.に常勤することになるので、アニサマだけでなくいろいろなところでシナジーを出せればと思っています。


――ニコニコ動画は7月から新作アニメ「美少女戦士セーラームーンCrystal」をWeb独占で配信する予定ですが、この世界的なビッグタイトルのプロジェクトはどのような経緯で実現されたのでしょうか?

「セーラームーン」に関しては2013年の夏にミュージカルの配信を行なっていましたが、実は「~Crystal」の方が先にオファーをいただいていました。私どもがお話をお聞きしているのは講談社さんの窓口なのですが、そちらによるとニコニコ動画で以前、別のアニメ作品を9か国語で配信した際の実績をご覧になったことがきっかけだったとのことです。

講談社さんとしては世界展開へのタイムロスに問題意識を持っていらして、たとえば通常であれば、日本でヒットした作品を海外に持って行って吹き替えをすると2年もかかってしまう。それでは旬を逃してしまうので、ワールドワイドで一気にブームを起こしたいというご意向だったんです。そういったことであれば、我々には実績もあったのでぜひご協力しましょうということになりました。ニコニコ動画の海外版が配信する形もありますし、より強いプレーヤーがいる国ではそのサイトと協力する形を取ろうと思っています。


――世界的に人気の作品ですが、各国からの反響はいかがでしょうか?

「大きすぎてどうしよう」というレベルの反応です(笑)。発表当日に20万アクセスがあり、そのうち約20%が海外からでした。ニュースリリース自体は日本とニコニコ動画のアメリカ版と台湾版で告知しただけで、海外では一部のマニアしか知らない状態でこの数字ですからね。「セーラームーン20周年プロジェクト」の公式サイトも我々で作っているのですが、アクセスログを見ても英語圏、中国語圏、スペイン語圏からが非常に多いですね。サイト自体は日本語でしか作っていないのに、これだけの人が見に来るんだということに驚いています。


――また、秋からNHKで放送される宮崎吾朗監督の「山賊のむすめローニャ」には製作・著作でドワンゴの名前がありますが、こちらはどのような関わり方をされているんですか?

あれは川上(量生、ドワンゴ会長)がジブリさんにプロデューサー見習いとして出社させていただいている関係もあってこの作品のプロデューサーを担当しているからです。作品自体の制作はジブリさんでやるわけではありませんが、制作協力でジブリさんが入っているので。決してニコニコ動画で配信を行うわけではありません。




――ドワンゴの創業メンバーである太田さんの目には、会長である川上さんがジブリでプロデューサー見習いをされたり、ジブリの内部を描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」でプロデューサーをされている様子はどのように映りますか?

彼はマスマーケティングを勉強したいんじゃないですかね。というのもドワンゴにとって、ジブリさんが「風立ちぬ」でやるような規模のマーケティングは未体験だし、その本質は外にいては絶対にわからない。それを基本的には包み隠さず見せていただいているので本当に勉強になると言っています。この経験は、ドワンゴの経営にとってもこうしたマーケティングが必要になった時に役に立つと思います。


――太田さん個人からご覧になって、現在のアニメビジネスにおける最大の課題はどこにあるとお考えですか?

パッケージのメーカーとネットサービス側がもっといっしょになって、パッケージの売上を伸ばす施策を取る必要があると思います。これは川上がいろんな場所で言っていることなのですが、「IT系のサービスはコンテンツ業界を搾取する側に回る」んです。アメリカのiTunesがいい例だと思いますが、なるべく安く買い叩いて、お客さんに提供する。お客さんは一見安く買えてよいと思うかもしれませんが、それだとコンテンツ側にまわるお金も激減しますから、マーケットがシュリンクしてコンテンツの質、量とも減ってしまい本末転倒です。やっぱり高単価のパッケージ商品が買われてマーケットが維持されるというのが僕は重要なことだと思っています。アニメの製作委員会ビジネスで考えてもパッケージに替わる主たる収益源はちょっと考えられないですね。


――今後、太田さんがされていくビジネスのビジョンについて改めて教えてください。

「animeloLIVE!」はパッケージメーカーとネットサービスが共存するためのモデルケースにしたいと思っているんです。コンテンツをお預かりして「animeloLIVE!」でプロモーションするということは、結果的にはパッケージ商品やチケットのプロモーションに繋がるわけです。月額サイトって、やっぱり収益力が高いんですね。そこで貯めた収益を徹底してプロモーションに使って、コンテンツ側に還元していきたいんです。そしていっしょにマーケットをさらに大きくしたい。その中に第二の水樹奈々さんのような存在が見つかればいいですし、仮にそういう原石の人物がチケット販売に苦戦されていたら、こちらで支援してプロモーションしていきたい。しばらくはマーケットが増える方向に向けて、それこそ儲け度外視でお金を投下して徹底してプロモーションしていきます。


――そこまで徹底される理由は?

アニメロミックスの時代にそれで一度成功している経験もありますし、パッケージが本当に落ちていった時に、セーフティネットになるのはライブイベントだと思っているからです。イベント先行チケットの抽選権利を付けるとパッケージ商品が売れることは、すでにいろんな作品で結果が出ていて、パッケージとイベントのバンドルは主流になりつつあります。やっぱり人は「体験」を求めているんだと思います。ニコニコ動画でもライブ放送である「生放送」が人気ですし、元々は非同期なコミュニケーションで体験を共有するサービスだったわけです。パッケージビジネスがシュリンクしてしまう前に、ネットサービス側の立場として、「ライブ」や「体験」をメインとしたサービスを立ち上げて、パッケージと相互補完の関係を作ることは、早急に手を付けないといけない。CDのマーケットにおいてアニソンは相対的な存在感としては上がっていますが、そんなに楽観視できる状態ではありません。なので、メーカーの方々といっしょになってこのマーケットを守って拡大してゆきたいと思っています。


(取材・文/日詰明嘉)

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美少女戦士セーラームーンCrystal

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配信日: 2014年7月5日   制作会社: 東映アニメーション
キャスト: 三石琴乃、金元寿子、佐藤利奈、小清水亜美、伊藤静
(C) 武内直子・PNP・東映アニメーション (C) 武内直子・PNP/講談社・ネルケプランニング・ドワンゴ

山賊の娘ローニャ

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放送日: 2014年10月11日~2015年3月28日   制作会社: ポリゴン・ピクチュアズ
キャスト: 白石晴香、宇山玲加、関貴昭、野沢由香里、佐々木梅治、赤星昇一郎、西凜太朗、小川剛生、杉村憲司、島田岳洋、手塚祐介、姫野惠二、谷昌樹、土井美加、加藤沙織、遠藤ふき子
(C) NHK・NEP・Dwango, licensed by Saltkrakan AB, The Astrid Lindgren Company

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