アニメ映画「サカサマのパテマ」、監督・吉浦康裕ロングインタビュー! カメラワークを生かした演出によって作画枚数は2万枚強に

2014年04月02日 13:360

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世界を作り上げるためのスタッフ

――『サカサマのパテマ』は逆さまのアングルのカットも多いのです。作画をする上で結構、ハードルが高かったのではないでしょうか。
幸い自分は『イヴの時間』から引き続き、3DCGで空間を構築して構図を決めるという方法をとっていました。そのまま『サカサマのパテマ』もその体制で始めたのですが、逆さまの構図を全て手描きのアニメーターに任せていたら、とても大変なことになっていたでしょうね。そのことは作り始めてから気づきました。実際、作画監督からも「3DCGがなければ無理でしたね」といわれましたし。そういう意味では僕の手法と「逆さま」という題材がジャストフィットしたんです。
――3DCGで組んだ背景をそのままレイアウトとして使ったのでしょうか。
はい。美術監督の金子(雄司)さんがすごく優秀な方で「これぐらいしっかりガイドラインがあるなら、そのまま背景にします」ということで。今回の背景美術は、この金子さんの世界観や画力にかなり負っています。
――金子さんの美術のどういうところが魅力なのでしょうか。
僕は映画の中で建築をかっこよく見せたいんですが、そのためにはちゃんと建築の知識に裏付けされた絵でないとダメだろうと考えています。今回は地下世界と地上世界と二つあるので、特に建築物はキーになるだろうと。それで金子さんと面識を得て、最初に地下世界のイメージボードを描いてもらったら、めちゃくちゃできがよかったんです(笑)。それで、是非よろしくお願い致します、と。
――地下世界と地上世界では建築物も対照的です。
地下世界は、巨大な建築物がごちゃごちゃとそのまま都市になっているようなイメージです。一方地上世界は、少しノスタルジーを感じさせる"空想科学漫画映画"の雰囲気がほしかった。そこで金子さんには、ブラジルの計画都市ブラジリアにあるような近代建物がほしいとオーダーしました。すると金子さんのほうから「ブラジリアを計画した建築家ルシオ・コスタはル・コルビジェの影響を強く受けている。それならコルビジェ自身が手がけた、インドのチャンディーガルを参考にするのはどうだろう」と逆に提案をしてくれたんです。で、写真集を見ると確かに、チャンディーガルの建物はすごくよかった。実作業でも、たとえば僕が学校の教室の大まかなコンセプトを用意すると、そこ開放感のある窓と、天井が窓の外まで続いているデザインを付け加えて、近代建築らしいディテールを足してくれたりしました。
――キャラクターデザインは『イヴの時間』とまたちょっと違う雰囲気になりました。
キャラ原案は『イヴの時間』と同じ茶山(隆介)さんにお願いしましたが、今回は冒険活劇なので、シャープでカッチリしているよりは、丸っこくて温かみのある線にしたかったというのがありました。ちょうどアニメーション用のデザインをまとめていただいた作画監督の又賀(大介)さんのオリジナルの絵もそんなテイストなんです。それで「あ、これでいいんじゃないか」と決めました。
――『THE IDOLM@STER』にも関わっているコスチュームデザインの杏仁豆腐さんはどういう経緯で参加されたのでしょうか。
パテマの衣装というのがなかなか難産で、茶山さんも苦労されていたんです。それで「ちょっと別の人にお願いしてみようか」と。そうしたら杏仁豆腐さんが、もこもこしているのにかわいい防護服を描いてくださって「あ、これはいいね!」となりました。そこでパテマの衣装については、杏仁豆腐さんにお願いをすることになりました。
――吉浦監督自身のキャラクターのデザインに対するこだわりというのは、どこがポイントですか。
僕は作品ごとに適切なデザインの絵を当てはめることが大事だと思っていいます。今回はパテマというキャラクターがとくに重要で、地下世界にいるんだけどとにかく可愛くて、嫌みがなく、みんなから好かれる人であることがわかるデザインにしたい、と。演出面でも、前半は地下世界ではいかに彼女がみんなから好かれているかっていうことに注力しました。
――今回、光の使い方、それからポイントで入る立体的なカメラワークも非常に印象的でした。
僕は、コンポジットといわれる、素材を組み合わせ最終的な完成画面を作る作業を自分自身で行っています。ほかにもスタッフはいて、手伝ってはもらいますが、映像の方向は完全にこちらで決めています。『サカサマのパテマ』は、光を含め画面に対する"味付け"が多いですね。というのも、金子さんの硬質な美術と、やわらかいキャラクターを一つの画面の中で馴染ませるために、撮影で情報量を増やしたからです。カメラワークについては、『サカサマのパテマ』だから、というより、僕自身のロジックで自然とそうなっちゃっているところはあります。古風な雰囲気のあるキャラクターだし、背景も手描きなので全体としては懐かしいテイストがあるにもかかわらず、パース感やカメラワークは3DCGがあるからこそできるものになっていて、このハイブリッド感は非常に新鮮で、やってよかったと思いました。


ラストシーン。そして、その先へ――。

――映画は最後に大きな「オチ」が待っています。あれは最初から考えてあったのでしょうか。
いえ、実は考えていませんでした(笑)。プロットの段階で考え出したものです。そもそも、物語の展開として、パテマがそのまま空へと落ちていったらどうなるのか、というのを入れたいと考えていたんです。ただ、そのまま落ちただけではお話にならない(笑)。そんな時に、あるライブにいって2階席からステージを見ていたら、アンコールの演出でパッと天井の照明がついたんです。それを見て、オチを思い付いたんです。
――そこから、ラストが導き出されるわけですね。
そうです。そのオチから、それまで迷っていたエンディングのまとめ方も決りました。ラストもずっと迷っていて、たとえば「パテマの逆さまが元に戻りました。ふたり一緒になれました。めでたし、めでたし」はわかりやすいけれど、安直ですよね。どっちかの価値観に合わせちゃうということは、サカサマ人を否定し続けている悪役のイザムラと同じ考え方になってしまうし。じゃあ、、どういうラストがあるか。それが先程のオチがヒントとなって、最後の大オチを思いつくことができた。それでようやく「これで終わった感じになるな」と思えました(笑)
――違う価値観を持ったまた信頼し合う、という要素はすごく現代に必要なものを描いていると思いました。
なるほど。時代性というものを強く意識したわけではないですが、エンターテインメントを真面目につくろうとすると普遍的なものが入ってきますよね。その結果だと思います。
――お話をうかがっていると、『サカサマのパテマ』は、これまで以上に多くの人に楽しんでもらいたいと考えて作られたのかな、いるのかなと思いました。
多くの人に楽しんでほしいのはこれまでと変らないんですが、『イヴの時間』は、見た目がハードなSFに見えたり、セリフ芝居中心だったりで、中高生以上の作品だったとは思うんです。『サカサマのパテマ』は、それよりももうちょっと広げて小学生から、うちの両親ぐらいの世代まで楽しめるように広げたいというのはありました。海外の上映ではファミリー向けとして宣伝されたので、小学生ぐらいの子供さんがストレートに楽しんでくれているのを見ました。
――『サカサマのパテマ』を作っていて、大変だったところというのはありますか?
いや、『サカサマのパテマ』は今までの作品の中では比較的精神的に楽に作れたほうでした。「これをあとどのくらい作り続けるんだろう」と思いながら『イヴの時間』を作っていた時のほうが相当、つらかったですね(笑)。
――それは何が違うのでしょうか。
『イヴの時間』の時は、いろんなことをひとりでやっていたので、様々な問題をひとりで抱えなくてはいけなかったんです。相談できる相手もあまりいなくて。今回は、映画を作るという目的も明確にあり、スタッフも集まってくれたので、そこが違いますね。先ほどお話したように、こちらが何かアイデアをいうと金子さんのように、それについていろいろ打ち返してくれることもたくさんありましたし。
――すると、制作は順調だったんですね。
そうですね。ひとつ不安があったとすると、「逆さま」という映像のおもしろさは、作ってみないとわからない、というところでした。最初に配信で見せた冒頭のAパートを完成させるまでは、「逆さま」というコンセプトがおもしろくなるのか、スタッフも100%の確信はもてない状態で作業をしていたようで。完成した映像を見て、スタッフは「あ、なるほど」と思ってくれたらしいです(笑)。
――吉浦監督にとって、『サカサマのパテマ』という作品は、どういう位置づけの作品になりましたか。
やっぱり初長編というのはひとつあります。20代で作った『イヴの時間』は、制約を逆手にとってがむしゃらに作った作品でした。『サカサマのパテマ』はそれに対して、「作りたいから作る」という気持ちで作った最初の作品かなと思いますね。『イヴの時間』ももちろん作りたかったんですけれど、目標の見据え方が違うというか。『サカサマのパテマ』は映画が作りたくて、映画を作ろうと思って企画を立てて、自分でスタッフも集めて、映画を作った。そういう意味ではスタート地点だと思っています。是非このスタッフで新しい作品を作りたいと思っています。
--最後に、これから『サカサマのパテマ』をご覧になろうとしている方にメッセージをお願いします。
この作品は、「ヒロインだけ重力が逆に働いていたら?」というアイデアを突き詰めて、正統派のボーイ・ミーツ・ガールにまとめた作品です。非常にシンプルな作品なで、ビジュアルを見て「あ、面白そう」と思ったら、その通り楽しんでいただける映画だと思います。ビジュアルの通りの映画ですので、是非見ていただきたいです。

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関連作品

サカサマのパテマ

サカサマのパテマ

上映開始日: 2013年11月9日   制作会社: パープルカウスタジオジャパン/スタジオ・リッカ(スタジオ六花)
キャスト: 藤井ゆきよ、大畑伸太郎、加藤将之、内田真礼、岡本信彦、ふくまつ進紗、安元洋貴、土師孝也
(C) Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee 2013

サカサマのパテマ Beginning of the Day

サカサマのパテマ Beginning of the Day

配信日: 2012年2月25日~2012年8月25日   制作会社: パープルカウスタジオジャパン
キャスト: 藤井ゆきよ、大畑伸太郎、加藤将之、内田真礼、岡本信彦、ふくまつ進紗、安元洋貴、土師孝也
(C) Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee

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