アニメ業界ウォッチング 第3回:アニメの未来を切り拓け! 「アニメミライ」プロジェクトマネージャー・桶田大介に聞く

2014年03月18日 18:150


プロジェクトの今後の展望・期待


―――プロジェクトの趣旨は若手アニメーターの育成ですが、その先にある業界全体の底上げ、コンテンツのクオリティアップにも期待されているのでしょうか?

その先というよりは、並列と考えてもらったほうがいいかもしれません。私は、多様で豊かな作品群があることが大事だと思っています。アニメーションに限らず文化系コンテンツは、狭い範囲に寄っていくと滅びやすくなるのではないでしょうか。

今の深夜アニメでいうと、オタク系が多く、”BL”なら”BL”とわかりやすくなっています。似たようなアニメが増えると過当競争になり、ジャンルがニッチになりすぎて一般の視聴者は近寄りがたくなる。やがて規模が小さくなり、関わっている人も同質化していきます。コンテンツに代替先があればいいけれど、視聴者やクリエイターの新規参入が止まると、ゆくゆくは分野、産業自体が滅びてしまうことにもなりかねません。

未来少年コナンたとえばTV局のプロデューサーなども危惧しているけれど、子ども向けのアニメーションが少なくなっている。あるにはあるけれど、新しい作品は一般に“商業性”が強過ぎる気がします。私たちの世代だと、「まんが日本昔ばなし」や「ふしぎな島のフローネ」 や「未来少年コナン」など、コンテンツにお金を払わないアニメの楽しみ方がありました。余計なお世話なのかもしれないけど、やはり多様なものがあってほしいです。


ただし、昔は視聴率が取れればビジネスが成立したけれど、今は商品が売れないと成立し難いですし、子どもの人口が減少し、テレビ局のお客さんである視聴者も高齢者が主となっているので難しい問題です。



―――なるほど…。

リトルウィッチアカデミアそこで「アニメミライ」は、若手の育成と並んでオリジナルアニメーションの振興を掲げているんです。オリジナルアニメは企画として成立しづらいので、継続して作り続けることで何かヒントになればという思いもあります。幸運にも3年目は、制作会社トリガーの「リトルウィッチアカデミア」(吉成曜監督)がある一定のファン層を得ることができました。アメリカのクラウド・ファンディングサイト「Kickstarter」で続編の資金を募ったところ、1か月で8,000人から62万5,000ドルくらい集まりました。続編を作ることになっているので、これはプロジェクトの期待通りの展開ですね。




―――制作会社にとって、資金提供を受けてオリジナル作品を作れることは大きなチャンスですよね。

それはケースバイケースですね。「アニメミライ」によって制作したアニメ作品の“IP”(知的財産)から、ビジネスを生み出せるかどうか。このプロジェクトの眼目は、制作費も作品の権利も100%も制作会社に渡し切ることです。とはいえ、アニメのIPを持ってるだけではまったく利益にならない。商品開発したり、放送権料を得たり、アニメのIPを活用したビジネスをしないと儲かりません。大多数の制作会社はアニメーション制作を受託し、成果物としてコンテンツであるアニメ作品を納品することで儲けています。IPだけあっても、商品開発や広報宣伝などのノウハウがなければビジネスには繋げることができません。


―――この“プロジェクトがおいしい”と感じる制作会社は、そこで制作した作品によって会社のプレゼンスやネームバリューを上げ、さらに多くの作品を受注していきたいという思いなのでしょうか?

トリガーはその典型だったように思います。トリガーは今放送されている「キルラキル」という作品を制作されています。そのトリガーが独立後に制作した初めてのアニメーション作品が「リトルウィッチアカデミア」であったことは大変ありがたいことです。このほか、企画のプロモーションを期待し、いわば PVとして制作している会社もあります。マッドハウスの「デス・ビリヤード」やゴンゾの「龍 -RYO-」などはそのようなお考えもあるものと聞いています。このようにIPに価値を持たせられる会社にとっては、おいしいプロジェクトとなる可能性もあるでしょう。

デス・ビリヤード 龍 -RYO-



―――それでは、応募してくる制作会社はある程度の“勝機”をプロジェクトに見出して応募してきているのでしょうね。

いろいろな理由があると思いますね。この人に一度、監督をさせてみたかったとか、なかなか決まらなかった企画を一度、形にしておきたかったとか。


―――プロジェクト概要には“一線級の監督に対するオリジナル作品の機会提供”とありますが、“一線級の監督”とはどのような定義なのでしょうか? 実力がともなっていれば新人監督でも可能なのでしょうか?

実は、最初の意図とは少し異なるんですよ。この事業は“若手アニメーターの育成”なのですが、アニメーターを監督まで含めて考える人が多かったんです。「絵を描く人=監督」というイメージは宮崎駿監督や同監督に関する報道の影響かと思うのですが、この事業では違います。すぐれた監督がいても、その手足となって働く優秀なアニメーター達がいなければ作品は成立しない。つまりこのプロジェクトでの“若手アニメーター”は、職業人としての“アニメーター” を意味します。教える側の監督まで若手・新人だと破綻してしまうので“一線級の監督”と定義しています。プロジェクト初年度の制作会社アセンションに制作 いただいた「キズナ一撃」がいい例です。「クレヨンしんちゃん」などで知られるベテラン・本郷みつるさんが監督を務めたのですが、アニメーター育成を意識して絵コンテを作る段階から作画の難易度を設定されるなど、さまざまな工夫をしてくださいました。

現実としては、「リトルウィッチアカデミア」の吉成曜監督はこの作品が初監督だし、今年のウルトラスーパーピクチャーズの「アルモニ」の吉浦康裕監督もいまだお若いです。当初の狙いとは違うのですが、作品としても現場としても充実していて育成も達成されているので、作画監督として経験も積まれていれば、初監督でも意義はあるなと思います。たとえば、テレビアニメ「有頂天家族」の吉原正行監督の初監督作品は、初年度のピーエーワークスが作った「万能野菜ニンニンマン」です。「攻殻機動隊ARISE」総監督の黄瀬和哉さんの初監督作も、初年度のProduction I.Gが作った「たんすわらし。」でした。なので、現状は、なかなか機会がなかった実力派新人監督に一度経験を踏ませる場としての意図もありますね。こちらで規定した人材育成の方法論され守られていれば、問題なしです。


―――ありがとうございました。


(取材・文/山崎佐保子)


アニメミライ2014再上映決定
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