にゅまさんさんの評価レビュー

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「青春」の価値を示す珠玉の名作 #anime_eupho

観賞手段:テレビ、CS/BS/ケーブル、動画サイト
吹奏楽にかぎらず芸術で生きて行く事は厳しいが、とりわけ吹奏楽は楽器の価格も高く、ソロプレイに向く楽器も限られる為、やはり取り組めるのは学生の部活動の間に限られる場合が多い。
 本作は物事に真剣に取り組む事の困難さと素晴らしさを描いている点で、全シーズンまで放映されていた話題作『SHIROBAKO』との作風の共通点もあるが、『SHIROBAKO』が仕事としてアニメ制作を続けて行くことを描いていたのに対し、本作は学生の部活動という限られた数年間で燃焼し尽くす世界ならではの機微を描いている。無論、どちらが優れていると言うのではなく、プロ野球と高校野球の様に素晴らしさの趣の違いと言う事である。
 それにしても、京アニ作品というのに他社作品と並べたくなるほど、京アニ作品としては新境地と思う。部活の日常を描きつつも日常に潜むネガティブな面から目を逸らさず、しかし安易に解决する訳でもなく、酸いも甘いも思い出に積み重ねるしか無い拙い若き日々。良くも悪くも「青春」としか括り様のない物を正面から描いて魅せた本作は、これまでの京アニ作品に感じなかったテイストに満ちている。

 その一方で、映像表現は「さすが京アニ」と唸らされるばかりである。ただでさえアニメの色彩で表現の難しい金管楽器はもちろん、演奏時の指づかいや息遣い、大きな楽器の重量感、音響の振動、音響の広がりと言った吹奏楽物を手がけるために必須のハードルの高い表現をこなし、光と影や水や風などの自然物、姿勢や表情や視線と言った京アニ得意の部分も含め、作品終盤まで息切れせず、むしろ終盤になりますますクオリティを高めていった事は、並々ならぬ技術と組織体力とバランス配分管理の巧さが見て取れる。
 本作では音響面も吹奏楽者だけあって非常に力が入っており、もはやこのまま音響設備の整った劇場にて大画面で堪能したいとさえ思う。

 また、今回主演を務めた若年19歳にして子役出身のベテラン女優である黒沢ともよの、黄前久美子というキャラの独特のそっけなさ、飾り気の無さ、つい口に出る迂闊さ、そしてテンション低く流されやすかった序盤から真剣に意思を示す後半への成長を見事に演じきった事も特筆に値する。『結城友奈は勇者である』に引き続き、従来の役柄とは異なる方向のキャラクターを愛情込めて演じ切った事は、彼女の芸歴の中でも大きな価値になるだろう。
 また他の演者達も見事なキャスティングだった。滝先生は櫻井孝宏しかありえないとすら思えるキャラクターであったし、その期待を超えるインパクトの演技であった。朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳の初々しさが光り、本作で名を覚えた者も多いだろう。寿美菜子、早見沙織、茅原実里、日笠陽子といった中堅陣が従来の定番どころから外れたキャラクターを好演し、芸幅を広げていることを知らしめたし、山岡ゆりのあの号泣シーンに至るまでの演技もまた素晴らしい。津田健次郎、小堀幸、藤村鼓乃美も脇を支える立場で良い存在感を示していた。

 この2015年4月~7月期で優れた1作を挙げると言うならば、自分は自信を持って当作を薦める。それだけの価値が本作には有る。
にゅまさん
にゅまさん
ストーリー
5.0
作画
5.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(1) 2015-07-05 11:58:02

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