製作者サイドが原作に惚れ込んでいるだけあって、
非常に安定したクオリティの高い作品に仕上がっている。
いつ観ても興味深く、考えさせられたり唸ったりする。
正直なところ、流行る絵柄ではないだろうし、
物語のトーンも淡々としているので、とても地味である。
けれど、そこにこの作品の絶妙な個性、世界観がある。
毎回観たいと思わせる、珠玉の物語がある。
蟲の存在は不思議で時に理不尽だ。
毎話、そんな蟲たちと関わる蟲師、主人公のギンコは、
物語の案内役、進行役に徹しているところがあり、
自分のことを多く語らない(いくつかエピソードを持つが)。
しかしそれもこの作品のいいところのひとつでもある。
蟲師が万能では物語が死んでしまう。
ギンコは役目を任されているというぐらいの、
現状の存在感でいいのである。
物語の背景もいい。
現代ではないが完全な架空の世界でもない。
昔の日本にもしかしたらあったかもしれないという、
リアルとファンタジイが同居している。
蟲という特異な存在が物語に深く根ざしていて、
人間の生活、運命まで、簡単に変えてしまう。
蟲に翻弄される人間たちの姿は、
フィクションでありながらリアルを感じさせて、
現代人に通ずる人間くささを感じさせる。
1話に1エピソードという物語形式も優れている。
それがまた破綻せずまとめられているのがすごい。
少々淡白ではあるが、主人公ギンコのおかげである。
ギンコが物語を内から外からうまい具合に
見せてくれるからだ。
この作品はきっと、物語を作るうえでの手本として
見ることができるだろう。そんなことを考えるほど、
構成がしっかりしており、各話に魅力がある。
創作をする人で未見の人は、勉強がてら観ておくと
後学のためになるだろう。
蟲師は、世間でもっと評価をされてもいいのではないかと
思ってやまないが、このままひっそりと味わいたいという
相反する気持ちにさせられる。
そんな、大切な宝のような作品である。
旧作、シリーズを通して、静かなる名作。