CUDAさんの評価レビュー

同名のビジュアルノベルゲームを原作としながら、登場キャラクター、ストーリー、舞台背景に至るまでほぼ全て作り変えるという恐るべき試みをしたアニメです。

2008年放送当時としてはトッププラスの映像美で、とても親しみやすいキャラクターデザインと繊細な表現は見どころの一つです。

キャラクターデザインの関口可奈味さんはこの後もPA Worksの様々な作品でキャラデザ・総作画監督を努めていますが、true tearsの時点でもかなり良い仕事をされていたなと思います。

肝心の物語ですが、恋愛アニメや恋愛ゲームにおけるお決まりを一握りだけ入れて、それ以外はアニメ特有のお決まりや陳腐さをなるべく避けるというコンセプトを感じました。

主人公が3人のヒロインから惚れられて複雑な関係になる、雑に説明すれば昼ドラっぽいドロッとしたストーリー。しかもそのうちの1人には彼氏がいてそいつが主人公の親友だっていうんですから。

どことなくギャルゲーっぽい関係性でもヒロインたちの内面や動機を真面目に描いてくれているのが逆に新鮮です。
その中で主人公とヒロインたちがそれぞれを取り巻く状況の中で葛藤して成長する爽やかな一面も。

リアル路線のようでそうでもないような独特な性格付けとストーリー展開、ニワトリが出てくる主人公が描いている絵本を使っての心情描写などはかなり特徴的です。

最後まで見たくなるような映像や演出、芝居の魅力は十分にあると思います。これはアニメーション制作陣や声優陣の尽力があってこそでしょう。このディレクションは映像・音ともに見事です。作風を阻害する要素が少ない。
アニメでこういうナチュラルな芝居（声の演技）はなかなか聴けません。それを許容する作品が少ないですので。

一方で、終盤の展開は若干駆け足かつ劇的すぎてちょっとついていけなかったです。恋愛関係の帰結するところに関しては個人的には満足でした。

眞一郎の母の心境の変化は説明不足もあっていまいちわかりづらかった。

出崎演出っぽいことをたまにしていますが、この作品には合わないと思いました。ちょっとシュールだ。

オープニングではかなり長時間背景をパンして映していく箇所があってなかなか面白かったです。


true tearsは挑戦的な作風と丁寧な描写でしっかりと爪痕を残した作品です。P.A Worksの今に繋がる試金石であり、同スタジオの代表作の一つ。

プロットに若干の粗さがあるものの、全体的には素晴らしい作品だと思います。true tearsのようなアニメを長いこと探している気がします。

もし本作が2008年ではなく2015年に放送されていたらどんな評価を受けたのか興味深いです。