ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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格闘ゲーム界隈の熱気を現在に伝える、もう一つの「龍虎の拳」

観賞手段:テレビ、ビデオ/DVD
格闘ゲーム「龍虎の拳」を原作としたTVアニメ。この頃の格闘ゲームは社会現象に近いブームを巻き起こしており、特にゲームセンターはこのジャンル一色だった。そうした中で勢いがあったのが、「龍虎の拳」や「餓狼伝説」「サムライスピリッツ」のSNK。同社はメディアミックスにも熱心で、本作の他にも格闘ゲームをアニメ化し、ゲームがリリースされる合間を縫うようにして放映する、戦略的な取り組みを行っていた。時系列に並べると分かるが、「餓狼伝説(ゲーム)」(1991年11月25日)、「龍虎の拳(ゲーム)」(1992年9月14日)、「餓狼伝説2(ゲーム)」(1992年12月10日)、「バトルファイターズ 餓狼伝説(アニメ)」(1992年12月23日)、「サムライスピリッツ(ゲーム)」(1993年7月7日)、「バトルファイターズ 餓狼伝説2(アニメ)」(1993年7月31日)、「餓狼伝説SPECIAL(ゲーム)」(1993年9月16日)、「バトルスピリッツ 龍虎の拳(アニメ)」(1993年12月23日)、「龍虎の拳2(ゲーム)」(1994年2月3日)、「SAMURAI SPIRITS ~破天降魔の章~(アニメ)」(1994年9月18日)、「真サムライスピリッツ(ゲーム)」(1994年10月28日)……と、ゲームとアニメの展開が見事に噛み合っているのが興味深い。
「バトルスピリッツ 龍虎の拳」のストーリーはゲーム準拠というよりはオリジナルだ。元々のゲームは、主人公である空手家のリョウが、さらわれた妹ユリを取り戻すべく、親友かつライバルであるロバートとともに、危険な街サウスタウンに乗り込み、手がかりを知る荒くれ者たちと戦うというダーク寄りの内容。一方、アニメ版のリョウは、流行らない空手道場の運営費をなんでも屋で賄う中、宝石「シリウスの瞳」の争奪戦に巻き込まれてしまい、これに絡んでさらわれたユリを助けるためにロバートと奮闘する。リョウが空手家、ロバートが財閥の御曹司、ユリがさらわれてしまうといった基本的な部分はゲームと同様だが、アニメは笑いありアクションありの明るめな内容となっている。その他のキャラクターには、大きくアレンジが加えられた。古武道家の藤堂はなぜか警部となり、ゲームでトレードマークとしていた胴防具を警察のガサ入れで着用。また、ジョンは軍人で元パイロットであり、戦いの中で人を殺しながら飛ぶことに罪悪感を覚えるという知性的な人物だが、本作では女性にナイフを突きつけて喜び、仲間から「まともじゃない」と断罪されるなど、原作ゲームとは別物となっている。いわゆる「アニメの脇役」的なアレンジがされているというわけで、これは使用キャラクター全員が「主役」である格闘ゲームの文法とは別。新しいジャンルの文法が周知されていなかったのか、アニメ作品としてまとめるためのアレンジであるかは不明だが、当時彼らを使ったプレイヤーから戸惑いの声が上がったのも仕方のないところだろう。
原作では気力を消費して気合い弾を撃ったり、ピンチに際して隠し技の猛ラッシュが使えるようになるなどゲーム的な仕掛けも多いが、この辺りもオミットされている。ゲームとしての面白さと映像としてのリアリティや見栄えは別であり、後者を優先する判断がされているということか、この辺りも1990年代のメディアミックス事情がうかがえる。その一方、アクションシーンは1990年代アニメらしく手描きとなっており、リョウやロバートが丁々発止と攻防する様が小気味よい。リョウが高所から落下するのに対し、蹴りを合わせて勢いを殺すことで助けるロバートなど、ゲームとはひと味違ったアクションもあり、見ていて楽しいものがある。格闘ゲーム界隈の熱気を現在に伝える、もう一つの「龍虎の拳」といえるだろう。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
3.5
作画
4.0
キャラクター
4.0
音楽
3.5
オリジナリティ
3.5
演出
3.5
声優
4.0
3.5
満足度 3.0
いいね(0) 2023-11-30 15:03:45

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