『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』西田征史さんインタビュー

2011年に放送され、大ヒットとなった「TIGER & BUNNY」。アニメファンの枠を越え広く人気を集めたのは、超能力を持ちながら、時に迷い、失敗もするヒーローたちの姿が共感を呼んだから。中でも、べテランだけれどキャリアは崖っぷちの主人公ワイルドタイガーと、実力はあるが生意気な新人バーナビーのコンビは男女、世代を問わず話題になった。

その劇場版第一弾「The Beginning」は、TVシリーズ第1話、第2話をベースに大幅な新作カットを投入し、TVでは描かれなかったビハインドストーリーを織り込んだハイブリッドエピソード。2013年の劇場版第2弾を前に、初めてのファンには入門編として、TVからのファンには新たな発見のあるイベントムービーとして楽しめる仕掛けになっている。

今回、TVシリーズから一貫して「TIGER & BUNNY」の脚本を担当する西田征史さんに脚本作りやキャラクターについてインタビューしました。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』 脚本・西田征史さんインタビュー

西田征史さん

―――TVシリーズの脚本は、どのように進められたのでしょうか。

特殊能力があるヒーローがいる世界で、彼らがそれを職業として、スポンサーを背負っている。 というのがお話いただいた段階での決まっていたことでした。そのような世界の中でどんな話にしましょうか?と。

ヒーローの外見は、全部出来ていました。中身のルックスはまだ出来ていなかったのかな。こういうルックスのヒーロー達で何かというのはありましたので、性格はこういうのどうですか。 見切れはどうですか。天然はどうですか。など提案して作っていきました。

スカイハイは、なんとなくキング・オブ・ヒーローという肩書は決まっていました。だから、冷たい嫌みな男もありだと思いましたが、 トップで更にいい人だと、勝てっこないやってキャラクターになる気がしてそっちにしたかったんです。

でも、いい人すぎても面白みがないので、いい人をこじらせて天然にしてみようと思って、スカイハイはあのようになりました。

ファイヤーエンブレムは、立ち方からオカマであることは、絵の段階で決まっていましたね。

―――なぜか、股間が強調されてますよね。

そうなんですよね(笑)。

ブルーローズは、キャラクターとしては女王様で行くけど、本当は自分の中で良しとしていないとか、本当はやりたいことがあるとかを付けてたりして、 ルックスから思いつくそのままのパターンとそれを一つひねったパターンとかいろいろ考えましたね。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』

―――映画版ではどんなところ見せたいのでしょうか。

んー、端的に言うとすると、虎徹とバーナビーの距離感ということになるかもしれないですけど。色々なところに思いをこめてます。

実は、この新作映画は準備的に考えてもTVシリーズの総集編のような映画にしましょうかという話が最初にありまして、で、総集編も一度考えてみたんですが、どうしても面白みを見出せなかったんです。

TVシリーズの素材を使いつつ、映画として1時間半見てもらうことを考えた時に、全くこの作品を知らない方も楽しめつつ、ファンの方も楽しめるとしたら何をすべきかを考えて。 で、作品の設定を説明している1~2話から入って、2話と3話の間にもう一個事件が発生していたら、いいかな、と思いついて脚本を書いていきました。

―――キャラクターに個性があって、それぞれにファンも付いていますが作品的に意図したところはあるんでしょうか。

んー、狙いというか、愛される存在になってくれるといいなと思ってそれぞれのキャラは書いていましたけど。とにかく、心を揺さぶる熱い話に出来ないかということを監督とも共有していたので、男が楽しめるものを作れたらいいよね。 ということでストーリーを作りました。

作中でいきなりお姫様抱っこさせたのは、相容れない2人のコンビの出会いとして、ベテランヒーローの一番屈辱的なスタートになるかと思ってです。 ヒーローなのに守られてしまうということを端的に表したのがお姫様抱っこという行為で、そこから相容れない2人がちょっとづつ距離を詰めていく展開にしていこうと。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』

―――TVシリーズは、コメディタッチで面白かったです。

ありがとうございます。最初にオファーいただいたときに、僕がそれまでの作品で書いてきた、楽しい会話のかけあいをアニメで描いて欲しいと言われました。 だから、そこを喜んでいただけたんだとしたら嬉しいですね。

―――登場人物がこれだけいて、性格付けがハッキリしています。折紙さんの特徴が「見切れる」ってなんだよ!と思ってしまったぐらいでした。

スミマセンでした(笑)。
ヒーローが多いからこそ、だったんですけどね。8人いるヒーローそれぞれが喋ることでキャラクターを立たせていくと、1話分の時間では足りないなと思ったんです。 だから、絵的に「見切れる」というだけで、一個の個性として表現できればと。 まぁ、こういうキャラクターが居ると楽しいな、ということで作ったのが一番の理由ですけど(笑)。

―――好きなキャラクターは誰でしょうか。

んー、皆好きですよ勿論。決めきれないです。強いて言うなら……気にかかってるのはロックバイソンってことでどうですか?
彼に対しては、こういうエピソードを書きたい、というのがあるんですけど、「それをやるんだったら、先に映画を」という流れで、未だ作れずです。 というか、それ以外のヒーローに対しても書きたいことはありますね。結局、皆、気にかかっています。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』

―――ブルーローズについて、女子高生とおじさんの恋愛は、狙ったところはあるんでしょうか。

狙った?んー、狙った? 恋愛要素はどこかにというのは、プロデューサーからのオファーではありますね。 虎徹への恋愛感情を持つことでカリーナの立ち位置はハッキリするかなと思ってこういう展開になってますね。 女子高生だからこそ、大人の男に惹かれちゃうこともあるかななんて。

―――余裕のある大人がもてるみたいなのは、いいですね(笑)。

まぁ、おやじとしての願望もあるんでしょうけど(笑)。

―――TVシリーズのさとうけいいち監督とは、作品を作る中で、どんなコラボレーションがあったのでしょうか。

生っぽさですかね。 自分が脚本を書くときに気をつけていることの一つでもあるんですが、監督も、その辺を意識されている方だと思います。 アニメーションの作り方はわからないんですが、キャラクターの動きとかって、もっとアニメ的な表現で見せることも出来たと思うんですが、実写的な表現にこだわったことで、「生っぽい」台詞を「生っぽく」表現していただき、作品全体に生っぽさが漂っているのではないかなと。 そこがコラボレートして生まれてきた部分じゃないかと思います。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』

―――バーナビーは、最初からクールキャラだったのでしょうか。

おじさんと若者のコンビだったら、若者が熱くてもいいんですけど、ルックスを見て、どちらかというと体温が低いのは、絶対バーナビーだろうなと。 それに、若い人の方がちょっと冷めているというか、おじさんを揶揄する感じの関係が面白くなるんじゃないかなと思って、自然にそうなっていきましたね。

2人の能力をどうするかは、一番悩んだんですが、ここを2人一緒にするっていうのは、いつだったかな?お風呂入っているときに思いついて、一緒の方が対比がハッキリするなと。一緒だからこそ、比べられてしまう。コンビ物として、あえて一緒がいい!と。 本当は、コンビ物なので、こっちはこっちの能力で、そっちはそっちの能力でと別にすることも考えていたんですけど。

―――長所、短所を補うような?

ええ。でも、そのパターンではないんじゃないかなと思って、能力を一緒に。
「ありがとう!そして、ありがとう!!」とかも一瞬の思いつきでどんどん膨らませていきました。

―――「ありがとう!そして、ありがとう!!」は、人気がでましたね。

ありがたいです。これは夜のテンションで書いたセリフだったんじゃないですかね(笑)。深夜のファミレスでうんうん唸りながら考えて。天然の彼が感謝を述べるとどうなるんだろう? 「ありがとう!そして、○○」と言うってところまで自分の中で決めて、「そして」の後に何を言うんだろうなーと悩んだ末に、あえて戻るってところに辿り着きました。

西田征史さん

―――新キャラのロビンは、どのようなキャラなんでしょうか。声優は、山口勝平さんですが声優イメージはあったのでしょうか。

映画として、クライマックスで凶悪な能力持った強敵と戦うという展開も考えたんですが、今回のビギニングはTVシリーズの3話へ続くストーリーなので、2人の距離感などを考えると、虎徹とバーナビーが力を合わせて巨悪を倒すという話ではないんじゃないかと、まだそれが出来る段階に2人が居ないというか。 そういう意味では、ロビンに一番制約があったかもしれません。

敵役として、やれることは何かを考えた時に、今回は戦闘能力の高さではなく、違う見せ方でいきましょうと。で、ロビンが決まっていきました。

山口さんは米たに監督のイメージです。タイバニの声優さんって皆さん素敵なんですが、山口さんもまたとても魅力的な声優さんですね。 アフレコでの第一声はダンディーな感じのお芝居でしたので、僕のイメージはこうなんですが、とお伝えして、もう少しポップというか、愉快犯なイメージでお願いしました。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』

―――映画を見に来る方に対して、PRお願いします。

映画の中では、TVシリーズ1~2話で使った素材も入っているんですけど、その合間合間の時間をちょっとずつ入れています。 初めて見る方にも楽しんでいだだけて、2回目、3回目の方もより楽しめる作りになっているので、裏側を楽しんでもらえたら嬉しいです。 広い画面で見たときに、画面の色んなところで遊びがあります。台本上でも後ろで実はこうしているとか書いたりしているんですけど、そのほかにも、一回では気付かない絵とかかなり、細かく入っているんですよ。 監督、スタッフの皆さんの遊び心ですね。

だから見ていただきたいところは沢山です。脚本的な観点ですと、最後のバーナビーのセリフに注目していただけたらと。

―――最後に一言お願いします。

映画として、絵も綺麗、音も細部にまで監督がこだわっていらっしゃるので、劇場版で見ていただくことで、より彼らが生っぽくそこに生きている感覚で見ていただけるんじゃないかと思っています。
是非、劇場の大きなスクリーンでお楽しみください。

西田征史さん
西田征史(にしだ・まさふみ)

1975年東京都生まれ。脚本家、演出家。
映画・ドラマ・舞台など幅広く脚本を執筆。主な作品に、映画『ガチ☆ボーイ』『半分の月がのぼる空』『おにいちゃんのハナビ』『怪物くん』ドラマ『魔王』『怪物くん』『妖怪人間ベム』他にアニメ『TIGER & BUNNY』(シリーズ構成・脚本)、教育番組『シャキーン!』(構成)、ネットシネマ『キキコミ』(脚本・監督)、シットコムドラマ『ママさんバレーでつかまえて』(作・演出)など。
この秋には完全オリジナルとなる連続TVドラマのオンエアも控えている。

作品紹介『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』
『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』

――― 舞台となるのは、巨大都市「シュテルンビルト」。この街には様々な人種、民族が集い、その中には「NEXT」を呼ばれる能力者も存在した。かつては偏見と迫害の時期もあったNEXTだが、現在は平和に市民と共存している。
そのために大きな役割を果たしているのが、NEXT能力を使い街の平和を守るヒーロー。ヒーローたちはただ平和を守っているだけではない。彼らにも生活があり、スポーツ選手のように企業のヒーロー事業部に属し、スポンサー企業のロゴを背負って、事件解決や人命救助に奔走する。その様子は人気TV番組「HERO TV」で中継され、働きに応じて加算されるヒーローポイントで決まる年間ランキングを競っている。
現在シュテルンビルトで働くヒーローは個性豊かな面々。そのうちの一人、ピークを過ぎたベテランヒーロー、ワイルドタイガー(鏑木・T・虎徹)は、市民の安全のためには器物損壊も厭わない不器用な熱血漢。しかし人気は下降気味で崖っぷちに立たされている状況。そんなワイルドタイガーが会社から命じられたのは、新人ヒーローのバーナビー・ブルックスJr.とコンビを組むことだった。ヒーローとして能力は高いが、生意気なバーナビーと頑固者の虎徹のコンビは果たしてうまくいくのか……。

2012年9月22日全国ロードショー
CAST
平田広明、森田成一、寿美菜子、楠大典、伊瀬茉莉也、津田健次郎、井上剛、岡本信彦、山口勝平
STAFF
監督:米たにヨシトモ企画:サンライズ企画協力:さとうけいいち脚本・ストーリーディレクター:西田征史ヒーローデザイン:桂正和キャラクターデザイン・総作画監督:羽山賢二/板垣徳宏音楽:池頼広