スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン 特集

荒牧伸志監督 インタビュー

実質的な製作期間は1年半くらい。正直なところ「絶対ムリ!」だと思っていました(笑)

荒牧伸志監督 インタビュー 01

――――本日は、よろしくお願いいたします。まず最初に、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』の監督を担当されることになった経緯を教えていただけますか?

荒牧監督:2009年のコミコン(※1)に「Halo Legends」(※2)のプロモーションで参加した際、現在いっしょに仕事をしているジョセフ・チョウというプロデューサーがソニー・ピクチャーズのプロデューサーさんを紹介してくれたことがきっかけです。ソニー・ピクチャーズのプロデューサーさんは、当時「ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン」や「バイオハザード ディジェネレーション」といった、フルCGアニメ作品をアメリカで展開しており、その流れで「いっしょに(仕事を)やらないか」と声をかけていただきました。

(※1)毎年7月か8月の4日間、カリフォルニア州サンディエゴで開催される、コミックやファンタジー、SFなどの大衆文化を取り上げた米国ポップカルチャーのコンベンション
(※2)テレビゲーム『ヘイロー・シリーズ』を原作とした、日米合作のOVA作品

――――ということは、製作期間は3年くらいでしょうか?

荒牧監督:まず、脚本が完成するまでに1年弱。脚本と平行してラフのデザインなどを進めていました。脚本が完成してからこのスタジオを立ち上げたので、実質的な製作期間は1年半くらいです。自分で言うのも何ですが、かなり無茶なスケジュールでしたね。

――――あれだけの作品を1年半で製作されたんですか!?

荒牧監督:完成してしまっているんで、これはイバれると思うんですけど(笑)、作っている間はドキドキでしたね。正直なところ「絶対ムリ!」だと思っていました(笑)。

――――素人目に見ても、タイトなスケジュールです(笑)。ちなみに、製作に携わったスタッフの方は何人くらいいらっしゃるのでしょうか?

荒牧監督:エンドロールに名前が出ている人数ですと、300人近くいますね。ただ、コアスタッフとしてスタジオに常駐してくれたスタッフは、最終的に30人強くらい。加えて、製作に付き合ってくれた協力会社が2~3社ありますので、コアスタッフは総勢で50人くらいです。私たちとしては、「思ったより多かったね」と思っているのですが、海外のフルCG映画と比較すると規模的には小さいと思います。

“ロボットを人が着る”というアイデアと、メカニックなデザインと兼ね備えた“パワードスーツ”という概念に衝撃を受けました

――――監督ご自身にとって、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』の原作である「宇宙の戦士」は、思い入れの深い小説だとうかがいました。「宇宙の戦士」の気に入っている点や、ご自身が影響を受けた点を聞かせていただけますか。

荒牧監督:原作というよりは挿絵ですね。「宇宙の戦士」を読んだのは高校生時代だったのですが、スタジオぬえの宮武一貴さん(デザイン)と加藤直之さん(イラスト)が手がけたパワードスーツの挿絵に衝撃を受けました。

荒牧伸志監督 インタビュー 02

――――ストーリーよりも、挿絵のインパクトが強かったということでしょうか。

荒牧監督:以前から存在したのかも知れませんが、私が“パワードスーツ”という概念を最初に目の当たりにしたのが「宇宙の戦士」の挿絵だったので。もちろん小説もしっかり読みましたし、ストーリーも面白かったのですが、ポール・バーホーベン監督の手がけた「スターシップ・トゥルーパーズ」を映画館へ観にいったときに「あれ、こんな話だったっけ?」と「宇宙の戦士」を読み返して、「ああ、こんな話だったんだ」とあらためて納得したくらいでした(笑)。

――――それくらい挿絵のインパクトが大きかったんですね(笑)。監督ご自身、もともとメカやロボットがお好きだったんでしょうか。

荒牧監督:かなり古い作品になるのですが、小さいころに観た「鉄人28号」くらいからロボットは好きでした。ただ、変形合体するようなガンダム以前のロボットアニメに対しては否定的だったんです。そんなときに登場した、“ロボットを人が着る”というアイデアと、メカニックなデザインと兼ね備えた“パワードスーツ”という概念には、衝撃を受けましたね。

――――“ロボットを人が着る”というアイデアは、衝撃的ですね。

荒牧監督:ええ。今でこそ医療器具として実用化目前だったり、軍用の装備としても開発中と言われたりしている状況ですが、そういったものの先駆けとして「すごいな」と思いますね。

――――では、今作に登場するパワードスーツには、特別な思い入れが?

荒牧監督:そうですね。「スターシップ・トゥルーパーズ」にはパワードスーツが登場していなかったので、今回パワードスーツを登場させたことによって「宇宙の戦士」が(本当の意味で)「宇宙の戦士」になったと思っています。

――――「スターシップ・トゥルーパーズ3」では、パワードスーツとして「マローダー」が登場しました。

荒牧監督:「マローダー」は、私たちが“パワードスーツ”として想定したものではなかったので、本当の“パワードスーツ”を登場させることが今回の自分の使命だと思っていました。

荒牧伸志監督 インタビュー 03

――――今作に登場するパワードスーツは、「宇宙の戦士」の挿絵とは違うデザインにすることにこだわったとお聞きしましたが?

荒牧監督:変えたかったわけではないのです。ただ、ソニーピクチャーズのプロデューサーから、すでにファンをつかんでいる実写映画との世界観を共有したい、と言う要請がありまして。

そして、その物語の中に、無理やりスタジオぬえ的な“パワードスーツ”を登場させてもいいものかと悩んだ時期もあったんです。挿絵を手がけられたスタジオぬえの加藤(直之)さんにもご相談したのですが、私たちの考えるストーリーの中に登場させるのは、物語的にも演出的にも無理があるのではないかと。本当は、それでも何とかするべきなのですが、時間も(成功させる)勝算もなかったので、いったん全部白紙に戻して、バーホーベン監督の世界の中で、パワードスーツが標準装備になったらどういうものになるかを考えて新たなコンセプトでデザインしたのが今回のパワードスーツです。

スタジオぬえの(デザインした)パワードスーツから離れたいとか、どちらがいい悪いの話ではなく、世界観の問題ですね。

――――パワードスーツに対する、荒牧監督の思い入れの深さをひしひしと感じます(笑)。

荒牧監督:そうなんですよ(笑)。もっと思い入れの深い話をしますと…自分がデザインすると、どうしても思い入れのあるスタジオぬえのパワードスーツになってしまうんです(笑)。それなら(スタジオぬえ)の宮武さんと加藤さんにデザインしてもらおう、ということになってしまうので、まったく違う路線のデザインにしたほうが自分としても割り切りやすいと思って臼井伸二さんにデザインをお願いしました。ちょっと言い訳めいてますが(笑)、そういう葛藤があったのは確かです。

――――パワードスーツのデザインは、作品の世界観に合わせたものだったんですね。

見ている人が誰に感情移入するかによって、主人公が変わってくるのも面白いところだと思います

――――続いて、ストーリーや演出についてお聞きしたいと思います。まず、バーホーベン節といいますか、バイオレンスとエロティシズムという、いい意味でのB級映画的な雰囲気を意識して製作されたのでしょうか?

荒牧監督:そうですね。1作目(「スターシップ・トゥルーパーズ」)の世界観を引き継いだ新作を作ってほしいと言われたときに、当然バイオレンスとエロティシズムは入っているものと考えていました。正直、私はスプラッターが好きではないのですが、作り出したら意外に楽しかったですね(笑)。

荒牧伸志監督 インタビュー 04

――――女性のヌードシーンは、モーションキャプチャーでの撮影時も裸なんでしょうか?(笑)

荒牧監督:モーションキャプチャー用のポイントマーカーが置けなくなるので、さすがに裸ではないですね(笑)。ただ、服を脱いでいるシーンなどは、うまく表現できたと思います。裏話になりますが、服を脱いだり着たりするシーンをCGで作るのは大変なんです。そこで、「脱ぎ終わった服を見せないように脱がせる」という表現に挑戦しています。どうでもいい挑戦なんですが(笑)。

――――ファンの反応が楽しみですね(笑)。続いて、今作には地球連邦軍の将軍・リコや、K-12チームの小隊長・ヒーロー(ヘンリー・ヴァロ大佐)、物語の舞台となる戦艦ジョン・A・ウォーデン号の艦長・カルメンといった、魅力的なキャラクターたちが登場しますが、主人公は誰なんでしょうか?

荒牧監督:これについては、いろいろ議論がありました。私としてはヒーローが主役だと思っていましたが、脚本家のフリント・ディルは、カルメンが主役だと考えていたようです。脚本を読んで、「なるほど」と納得していたのですが、でき上がったものを見てみると、「やっぱりリコって目立つよね」と(笑)。

ただ、物語を牽引する役割としては、カルメンなのかな、とも感じます。誰かが唯一絶対の主役というわけではなく、見ている人が誰に感情移入するかによって、主人公が変わってくるのも面白いところだと思います。

荒牧伸志監督 インタビュー 05

――――なるほど。とくに、リコは「スターシップ・トゥルーパーズ」シリーズの象徴的なキャラクターになっていると感じます。

荒牧監督:そうですね。今作では途中まで傍観者的な立場ですが、中盤からオイシイところを持っていっちゃうという…(笑)。やっぱりリコってある意味偉大だなと思いますね。まあ、自分でそういう展開にしたんですけど(笑)。

――――メインキャラクターだけでなく、兵士ひとりひとりについても、かなり細かく描写されていますね。

荒牧監督:それぞれのキャラクターが“意志を持って存在している”という感じが出ていると、戦闘での緊迫感や臨場感が大きく増すので、その辺りは意識して製作しました。引き合いに出すのも少々おこがましいのですが、「ブラックホーク・ダウン」(※3)のようになるといいな、と思っていましたね。

(※3)1993年に実際にソマリアで起こった「モガディシュの戦闘」(米軍を中心とする多国籍軍とゲリラとの市街戦)を描いたアメリカの戦争映画。臨場感あふれる戦闘シーンが大きな話題となった。

――――ハリウッド映画らしさの中にも、どこか日本のSFアニメを感じさせるエッセンスが加えられている印象を受けました。作品には、荒牧監督ご自身のアイデアも盛り込まれているのでしょうか?

荒牧監督:アニメ的なアイデア、と意識して盛り込んでいるわけではないのですが、自分でアイデアを出しながら絵コンテを切ると、そうなってしまうみたいです。ありがたいことに、それを面白がってくれる方もいますので、それはそれで良しとしていいんじゃないかと思っています(笑)

モーションキャプチャーの撮影では、“演技としての役者さんの動きを最大限生かす”ことを意識しています

――――次に、技術的な面についてうかがいたいと思います。監督は、これまでにも「アップルシード」や「エクスマキナ」など、モーションキャプチャーを活用したCG映画を製作されていますが、今作では、キャラクターの動き、とくに表情が生き生きとしているように感じました。新しい技術や試みが採用されているのでしょうか?

荒牧監督:今回初めて採用した技術としては、フェイシャルキャプチャーからCGキャラクターの表情を作っていく「フェイスロボット」というソフトを利用していますが、ソフトのおかげで飛躍的に表現力が増したというよりも、どちらかといえば(ソフトを)使用しているスタッフのスキルのおかげだと思います。

とくに今回は、“フォトリアルな内容を目指す”という命題があったので、人がしゃべっているときの自然な身体の動きとタイミングをシンクロさせたいと思っていました。今までは、顔の動きを後で付けるやり方だったので、身体の動きがあるとかえって邪魔だったんです。ただ、顔の動きを後付けすると、どうしても臨場感が出ないし、身体の動きも自然ではない。そこで今回は、ボディランゲージ的な意味合いも含めて、全身でしゃべっているような表現を目指しています。

――――作中のキャラクターたちの仕草や表情が非常にリアルで、まるで実写映画を観ているかのような錯覚を覚えました。

荒牧監督:そう思っていただけるのが一番うれしいですね。現場で役者さんに動いてもらうと、こちらが想定していない動きをしたり、より大きな動きをしてしまうこともあるんです。それはある程度よしとして、現場のライブ感や、役者さんたちの生き生きとした演技を優先して撮影したほうが、作品全体が生き生きするんだろうなと思って製作しました。そのおかげでキャプチャーの撮影では、役者さんからのアイデアを作品に取り入れたりと、いい雰囲気で仕事ができましたね。

――――役者さんのアドリブを削らずに、作品に生かしたと。

荒牧監督:はい。モーションキャプチャーというと、どうしても「絵コンテ通りに人が動くだけ」と、否定的な目で見る人もいますが、もう少し踏み込んで、“演技としての役者さんの動きを最大限生かす”ことを意識しています。役者さんのほうも、「自分の演技がそのまま作品で使われる」ということで、積極的にアイデアを出してくれますしね。

荒牧伸志監督 インタビュー 05

――――和気あいあいとした、楽しそうな現場ですね(笑)

荒牧監督:現場はすごく楽しかったですね。ただスケジュールがギリギリで、キャプチャーの撮影スタジオのスタッフに“1日にこれくらいのペースで撮影したい”と言ったら、「絶対無理です! こんなのできませんよ」と言われまして…でも、何とかやり切れてよかったです(笑)。

――――和やかな雰囲気の現場だったからこそ、完成させることができたのかもしれませんね。現場で起こったハプニングや、今だから笑って話せるエピソードなどがありますか?

荒牧監督:とっておきの話としては、オーディションで選んだ男性4名、女性2名の役者さんに、アメリから日本へ来てもらったんですが、そのうちの男女1組がたまたま来月に結婚を控えていたカップルだったんです。その2人にラブシーンをやってもらったんですが、目の前でどこまでもイチャイチャしているんで、「お前らいい加減にしろ」と(笑)。

――――演技にかこつけて、堂々と人前でイチャイチャしていると(笑)。

荒牧監督:ある意味、職業的に前向きだとも言えますが、ノリとして前向きなのかわからなくて、困りましたね(笑)。

――――貴重な裏話をありがとうございます(笑)。最後に、この記事を読んでいる「アキバ総研」読者にメッセージをお願いします。

荒牧監督:私自身もアニメの世界で30年近くメカをデザインしてきた人間なので、アクションやデザイン、ギミックといった部分に、アニメっぽい雰囲気がにじみ出ていると思います。SF好きな人やメカ好きな人が楽しめる内容になっていると思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただいて、大画面で楽しんでいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

――――本日はお忙しいなか、ありがとうございました。

プロフィール

『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』監督 荒牧伸志(あらまきしんじ)
『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』監督 荒牧伸志(あらまきしんじ)

1960年10月2日、福岡生まれ。
メカニックデザイナーとしてアニメーション界で頭角を現わし、「機甲創世記モスピーダ」(83)や「ガサラキ」(98)、「鉄腕アトム」(03)「RIDEEN」(07)などの作品で才気を発揮。OVA「メタルスキンパニック MADOX-01」(88)では原案を手がけるとともに監督デビューを果たす。04年には「攻殻機動隊」の士郎正宗原作による「APPLESEED」を発表。フル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャーという手法を用いた、この画期的な作品は日本のファンは元より海外でも称賛の声を集めている。07年にはその続編「EX MACHINA」を監督し、ここでも高評価を獲得。09年にはアニマックスで放映されたTVシリーズ「VIPER'S CREED」を演出。他の作品にはTVシリーズに「鋼の錬金術師」(03~04・プロダクションデザイン)、OVAでは「バブルガムクライシス」(87~91・プロダクションデザイン)「機動戦士ガンダム MS IGLOO」(04~06・メカニックデザイン)、映画では「ピンポン」(02・ストーリーボード)、「劇場版 NARUTO -ナルト- 大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!」(04・メカニックデザイン)、「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」(05・プロダクションデザイン)などがある。

『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』グッズプレゼント

--このキャンペーンは、終了しました。--

クリップ&ヒトコト


荒牧監督サイン付きプレスシート

募集要項

プレゼント内容:
荒牧監督サイン付きプレスシート:3名様
特製「戦闘防護ヘッド」型キーホルダー:3名様

応募締切 : 2012年8月21日(火)
当選人数 : 抽選で各3名様
当選連絡 : ご当選者様の電子メール(価格comID)宛へ個別にご連絡します。

注意事項

・抽選結果に関するお問い合わせには応じられません。
・抽選時にクリップを解除されている場合は対象外となります。
・本権利は、ご本人のものとし、他人への譲渡・換金はできません。
・以下の場合は、当選は無効とさせていただきます。
 当選のご連絡から2週間以内にご連絡がなかった場合
・カカクコムグループ社員、および関係者は参加できません。