今回のインタビューでは、『ベルセルク』の印象や、グリフィス役の演技について。それから、アキバ総研にちなんで、櫻井さんの秋葉原の思い出などをお聞きしました。
――『ベルセルク』という作品にどのような印象をおもちでしょうか。
硬派な漫画だと思いました。ストーリーの描き方や人物の描写等、重厚で息苦しくなるようなハードな展開がたまらないですね。「ここまでやるんだ」と、声に出るほどのエグい展開が多く、記憶にこびり付いて離れません。一切の容赦がないダークファンタジーの金字塔です。人間の内面が緻密に描かれていて、その人物が何を考えているのかを考えさせられる。人間のきれいな部分も汚い部分もよく見える作品という印象です。
――演じられるグリフィスの役ですが、どんな印象をおもちでしょうか。
まるで女性のような姿形で、凛として品のある王子様っぽいキャラクターに見えます。でも、中身はかなりダーティーで、非情になれる大胆さを持っている。彼は一人で何でもできてしまう天才なので、カリスマ性に富んでます。清濁合わせて飲み込める人間ですが、それが二面性としてアウトプットされているわけではありません。陣頭に立って剣を振るっていても、暗躍していても、そのすべてがグリフィスなんです。だから、鷹の団のメンバーにとっては、彼の読み取れない謎めく部分が魅力に映る。「この人についていこう。自分一人では決して届かない場所へ連れて行ってくれる」。そう思わせられるたくさんの光を持っているんです。
考えが読み取れないので、ともするとどこか隙があるようにも見える。実際はまったくありませんけどね。ガッツと出会って初めて隙のようなものが生まれるのかな。
――ガッツと出会う前とガッツと出会ってからで、演技は変わってくるのでしょうか。
「あんなこと言わない。普段はあんな表情を見せない」と、キャスカも言っていたように、素に近い自分をガッツにだけは惜しみなく見せる。グリフィスにとってガッツは興味の対象となる人間なんですよ。歳月を共に過ごしていく中でじわじわと影響し合い、それが心の変化へと繋がり、やがて起こる大きな転機の引き金となっていく。正確に言うと、変化というよりも年齢を重ねての成長に近いのではないでしょうか。共にいるからこそ芽生える共通意識と言いますか……。すでに、“出会いそのもの“が変化の始まりとも言えますからね。
――櫻井さんとして、意識的にその変化を出したことはありますか。
ガッツに向けての矢印は常にありますよ。また、印象的なシーンが多いんですよ。彼らがそこで見せる顔は、他では見せない顔。先ほどの話にも通じますが、積み重ねによる変化のグラデーションはあるかもしれません。人によっては、極端な変化と感じるかもしれませんが。
――ガッツを演じる岩永さんの印象はどうですか。
第一印象は、デカい(笑)。見た目がそのままガッツなんですよ!顔も似てます(笑)。不器用でぶっきらぼうで、己の命と剣で生き抜くガッツの男らしさが漂っていました。能書きを垂れず行動で示す。自分の原理、自らの価値観で動く。ガッツの魅力は岩永さんの声と芝居で完成されてますね。
――グリフィスのイメージはご自身にあると思いますか。
いやー、あんなに強くないし賢くないんで。全身、白で揃えちゃう感じが凄い(笑)。自信の現れでしょうし、計算も働いているかもですね。彼は後ろに控えるようなことをせず、先頭に立って皆を率いていく。だから、たくさんの人がついてくる。明確な夢というか、目的があるので、そこに向けての馬力はすさまじいものがありますよね。最短距離を知ってるんです。正攻法で知名度を上げつつ、必要とあらば暗に邪魔者を消すような手段も厭わない。彼のような才能や気概は僕にはありませんが、そういった割り切る思考はわかるし、必要であると判断できますね。……唯一、似てるところかな?
――試写を見させていただきましたが、映像面がすごいキレイですね。
きれいですよね!ここ最近は3Dがもてはやされてますけど、これだけ数多くの映像表現がある中で、新たな可能性を見た気がします。とにかく迫力がすごい。特に戦闘シーンがそうですが、ただきれいなだけじゃなく圧倒的な臨場感がある。ベルセルクの世界って死の在り方を描いている節もあって、生々しく描くことで“死”を意識するようになる。考えずにはいられなくなるような引き込まれ方をします。本当に見応えがありますよ!これを三つ続けて観られるのは、やっぱりうれしいですね。しかも、一年という短いスパンで。
当然、出演する側としてもうれしいことです。一つの作品に長い時間関われるのは、この上なく贅沢なことなんです。
――アフレコ現場で印象に残ったエピソードはありますか。
やっぱり大きな作品なので、初回のアフレコは緊張もありましたが、それ以上に興奮しちゃいました。岩永さん&行成さんとのアフレコは超楽しかったです!
岩永さんとの初顔合わせは衝撃でしたよ。僕、そこそこ身長はあるほうなんですけど、一緒に撮った写真を見ると小さい小さい(笑)。
――(初回アフレコでは)、岩永さんがドラゴン殺しの剣を持っていましたが、しっくりきていますね。
そう!そうなんですよ。クドいようですがリアルガッツなんです(笑)。あのリアリティに勝るものはないですね。原寸大のドラゴン殺しを作っちゃうくらいですから。作り手のモチベーションが高いのなんの。惜しみなく愛情を注ぎ込んでいます。
――監督さんからこういうふうに演じてくださいというお願いはありましたか。
そういうやり取りはあまりなかったんです。オーディションの時のニュアンスでやってもらえればという話で。あとは、「よろしくお願いしますね!」と、気持ちで押され(笑)。シーンやシチュエーション毎のディレクションはあったものの、大枠は任せてくださいました。
――アフレコ開始前と今とで作品に対する印象は変わっていますか。
イメージ自体はそれほど変わっていません。ただ、ハードな作品ですが、グリフィスを通して見てみるとナイーブな面もちらほら。彼の考えや気持ちを表現していくにつれ、物語自身が持つ感情の揺らぎが見える。強くはかない、そして熱い……。やっぱり魅力ある作品だなと思いました。
――(性格的に)グリフィスやキャスカのような方が近くにいらっしゃったら、どう思いますか。
印象が似ている人はいますよ。さすがに“グリフィス・キャスカそのまま”というわけにはいかないけど、絶えず輪の中心にいるような人がいますね。僕は群れるのがあまり得意ではないので、ガッツの気持ちはちょっとわかって……。アフレコが終わって「飲みに行こう」的なノリになっても帰ることが多いです。同じと考えていいのかわかりませんが(笑)。単独行動派なので、“組織に属する”というアクションが人より大きなことだったりするんですよね。その中にいつつ自分のやりたいようにやる、これがなかなかに難しい。
またグリフィスのように、大事を成し遂げるには一人の力では無理で、さらにきれいごとばかりでは実現が難しいことも熟知している人間も、同様に孤独な気がします。集団でいるのに一人なんですよねぇ……。キャスカっぽい女性は声優業界には多い気がします(笑)。一見、男っぽい印象だけど内面はすごく乙女、みたいな。
――いい意味でツンデレ。
腕っぷしも強いし、男を率いて戦場を駆るたくましさはかっこいいと思います。でもやっぱり、グリフィスに対しての盲信っぷりを見る限り、根は超女の子なんだと思いますね。こういう女性ってわりといません?サバサバしてるんですけど、ちょっとウェット(笑)。
――仲良くなったら…という感じですよね。
そこそこ深い付き合いをしないと、見せてくれない面をいっぱい持っているんですよ。知ってしまったら最後かもしれませんが(笑)。ただ男勝りなだけでないところに魅力があるんじゃないかと思います。強い部分があれば、対になる弱点もあるはず。
――アキバ系の方にはアニメファンが多いのですが、秋葉原に行かれたことはありますか。
15、6年前ですかね。まだバリバリの電器街の雰囲気だった頃、パーツを買いにちょこちょこ行っていました。変な物や面白い物を売ってるじゃないですか。そういうのを見るのって楽しいですよね。思い起こせば……随分と変わりましたよね。
――アキバ関係で印象深いお話はありますか。
これも昔の話ですが、欲しい材料があったので友人と買いに行ったんですけど、タダでくれまして(笑)。たいした量じゃないからあげると。「え?くれちゃうんだ」って思いました(笑)。費用は電車代だけでした。またいつか、時間をかけて回ってみたいです。
――探検すると面白いですよ。
「Gショック」がめちゃくちゃ流行った時期があったじゃないですか。本当にお金ない時に「Gショック」で生計を立てていたことがありますよ(笑)。UFOキャッチャーの景品で出ている店が、下北沢と新宿と秋葉原にあったんです。それを友人と取りまくって売るという(笑)。
――櫻井さんのファンの中には、『ベルセルク」の原作を知らない方も多いと思いますが、どういうところに注目してほしいですか。
作品自体の歴史が長いので、認知度はかなり高いと思うんですが……。一度映像化もされてますしね。男性漫画のイメージがあるけど、最近はそういう垣根もなくなってきている。女性にも受け入れてもらいやすいし、女性だからこそグッとくる部分もあると思う。劇場版から原作に行くもよし、原作から劇場へ行くもよし、です。
映像もそうですが、やっぱり人間模様ですよ。登場人物の視点で見るのもいいし、いちアニメーションとして見るのもいいし、ストーリーを純粋に楽しむのもいい。
個人的には、グリフィスの魔性の魅力に触れてもらいたいです。五感をフル回転させて、その目で、その耳で感じていただきたいです。
――今後10年続くシリーズとうかがいました。
はい。やります。たとえ一人になっても(笑)。それくらいの気持ちで臨んでいますから。内容は太鼓判です!原作のすべてを劇場版として映像化できたら幸せです。アキバ総研さんもご協力よろしくお願いしますね!
――映画を心待ちにしているファンの方にひと言お願いします。
ただただ、本当に光栄に思っております。劇場作品として公開されるのは本当にスペシャルなことなので、多くの方に劇場に足を運んでもらいたいです。映像も素晴らしいし、サウンドも素晴らしい。キャストも超豪華です。皆さんの力をお借りして、このベルセルクという作品のすべてが劇場で公開できるようなムーブメントを起こせれば最高ですね。自分の国を作る夢を掲げるグリフィスと同じように、僕もこの夢を胸に頑張ります!皆さん、劇場でお会いしましょう!!
――ありがとうございました。
c三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS