アートか、ホビーか? 変形する金属彫刻を作りつづける造形作家、坪島悠貴の幻想世界【ホビー業界インサイド第81回】

2022年05月22日 11:000

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手描きでイメージを固めて、CADも自分で勉強して、変形ギミックを追求する


── 個人作品でも商品原型でも、複雑な変形ギミックを考案しないといけませんよね。それが大変な気がするのですが……。

坪島 はい、大学を出てからは打ち出しという技法で自分の作品をつくっていましたが、変形する作品を手がけるようになったとき、CADが必要だと感じました。当時は「Fusion 360」というCADソフトが出はじめて、学生は無償で使うことができたんです。高機能でいろいろなことのできるすぐれたソフトで、自分の成長とともにソフトの性能もアップしていきました。
一番最初の作品では有機的な形状を作るスキルがなかったため、外装は打ち出しで手づくりして、でき上がったパーツの寸法を測って、内部の変形ギミックをCADで設計していました。外装に干渉しないように余裕を持たせて設計しているので、すべてをCADで設計すれば、もっと攻めたギミックにできるんです。


── 今も、手づくりとCADを両方使っているんですか?

坪島 いいえ、今はだいぶソフトを使いこなせてきたので、すべてCADで設計します。Fusion 360は、生物的な造形もできるところが利点なんです。工程としては3Dプリンターで出力した原型を型どり業者に発注して、金属にしてもらいます。宝飾品をつくる技法の応用で、原型をロウに置き換えて型をとり、鋳造してもらうんです。そこから先は、可動用の軸を打ったり、手作業で進めていきます。この工法だと原型に対して歪みが出るので、それを前提としてCADで設計します。

── 一部の作品には、色がついていますが?

坪島 色箔という、金箔のような薄い膜を貼りつけて表現しています。


── 有機的なイメージが多いのですが、どうやってデザインを決めるのですか?

坪島 ノートに、鉛筆でスケッチを描いていきます。変形ギミックは頭の中で大まかな構造を考えて、それから紙の上に描きます。平面上で検証して問題があれば、また考え直します。ある程度まで進んだら、簡単なCADで3Dデータを作って、モニター上で動かしながら考えます。フルに時間が使えれば、設計に2か月、組み立てに1か月ほどでひとつの作品が完成します。

── Gallery花影抄では根付を売ってもらっているようですが、根付というカテゴリーは意識していますか?

坪島 中学のころに海洋堂さんから「妖怪根付」のカプセルトイが発売されて、はじめはそれで根付という名前を知っている程度でした。花影抄で本物の根付を見て、根付を金属で作る作家さんたちもいることを知り、それが今にいたる大きなきっかけとなっています。自分は根付を専門に作る作家ではありませんが、根付のサイズ感、小さい中に緻密にアイデアの詰め込まれた感じが自分の作りたいイメージと重なるようです。干支にちなんで、丸い形から干支の動物に変形する“饅頭根付”を作ったりもしていますが、大きさによっては置物として作る場合もあります。


── 手のひらに収まる小さなサイズが多いですよね?

坪島 それは現実的な問題でして、大きくなるとそれだけ3Dプリントの出力費も大きくなり、使う金属の量も増えてしまうからです(笑)。それだけでなく、金属で作る場合、このぐらいのサイズのほうが手に持ったときの重量感がちょうどいいんです。ちょっと、持ってみてください。

── なるほど、ズシッと重たいですね。しかし、何度も変形させていると、関節が摩耗したりはしないのでしょうか?

坪島 バネを入れるなどして、関節がゆるくなっても強度を保つ工夫をしています。バネで引っ張ることでロックが外れて、すべての関節をリンクさせて、1か所を固定すればすべて固定されるように考えたりしています。同じ作品でも、関節機構は改良するように努めています。

── 箱から生物に変形するMEGABOXシリーズで最初に発売されたのは、「MB-14 CHINESE DRAGON(チャイニーズドラゴン) 青龍」でしたね。龍というモチーフは、メーカーの52TOYSさんが決めたのですか?

坪島 いいえ、特に指定はなくて、自分で龍を作ろうと決めました。ボックス形態から長い形に変形するギミックを以前から考えていたので、そのアイデアを取り入れたんです。制約は、ボックス形態に変形したとき、5センチ四方の立方体に収めることでした。あとは金型で抜けるように、プラスチックの厚みや抜け勾配を意識しました。パーツ数の制限もあるようですが厳密ではないようで、こちらでパーツ数に気を使って原型のデータを提出した後、52TOYSさんのほうでパーツを足してくれて、豪華な製品になりました。

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